読者への挑戦状とは、著者が読者に対し「これまでに全ての手がかりを提示した。なので真相を当ててみよ」と挑戦してくることである。
これがとーっても楽しいのだ。
読者への挑戦状が仕込まれたミステリー小説は数多く存在するが、今回はその中でも「特に面白い作品」を選ばせていただいた。
読者への挑戦をあまり読んだことがないなら、ますはこれらの作品を優先的に読むことをオススメしたい。
※基本的に激ムズなので、解けなくても落ち込まないように(私はほぼ解けたことがない)。
目次
1.『月光ゲーム yの悲劇’88』
英都大学の「英都大学推理小説研究会(EMC)」の部長・江神二郎を探偵役とした、作家・有栖川有栖さんを代表する〈学生アリスシリーズ〉である。
なんとこのシリーズ、現在までに発売されている全ての長編作品に読者への挑戦が含まれているのだ!
これだけでも最高なのに、さらに全ての作品が「クローズドサークル(脱出不可能の地)」での殺人事件を描いている。贅沢すぎるだろう。
そして何より注目すべきなのは、江神二郎による「論理的推理」である。美しいのだ。あらゆる謎を丁寧に解いていく推理シーンは爽快感すら覚える。
これだけの本格推理小説でありながら、このシリーズは「青春小説」としての一面も持ち合わせているからたまらない。一作目『月光ゲーム』を読めば、たちまち二作目、三作目と手にとってしまうだろう。
純粋に「面白い推理小説が読みたい」という方は必読のシリーズなのである。
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2.『どんどん橋、落ちた』
『十角館の殺人』などの館シリーズで同じみの、綾辻行人(あやつじゆきと)さんによる超難問「犯人当て」作品集。綾辻さんの作品の中でもかなり「特殊」な作品である。
一応ストーリーはあるが、あくまで「犯人当て」に特化しているのがポイント。それでいて「読者に解かせる気があるのか?」というくらい捻くれており、この作品には「フェアかアンフェアか」という話題が付き物である。
非常にユーモアのある問題ばかりになっており、固い頭で真面目に考えていていては一生解けることはないだろう(私は何一つ解けなかった)。
ただただ、「やられた!」「そうくるか!」という感覚を味わいたい方はぜひ読むことをオススメする。広い心を持って挑戦しよう。
3.『体育館の殺人』
「平成のエラリー・クイーン」こと青崎有吾さんによる本格ミステリー。アニメオタクのダメ人間・裏染天馬を探偵役としたミステリーシリーズの一作目である。
主人公がアニメオタクな探偵、というと、よくあるライトミステリーのように思われるかもしれないが、内容はいたって真面目な本格ミステリなのだ。
密室殺人に始まり、クセの強い天才探偵の登場、読者への緒戦、容疑者を集めて推理を披露、と超論理的に超本格ミステリしている。それでいて非常に読みやすい文体なのがありがたい。
見事なロジックによる推理はまさにエラリー・クイーンを彷彿とさせ、なぜ著者が「平成のエラリー・クイーン」などと呼ばれるかがすぐにわかるはずだ。
昔ながらの探偵推理小説がお好みならぜひ読んでみていただきたい。
4.『名探偵はもういない』
みんな大好き「閉ざされた雪の山荘」で起こる殺人事件である。しかも宿泊客はみんな怪しげ。
いかにも本格な舞台設定はワクワクするし、中盤以降の推理合戦を含め、数ある伏線を収束させていく終盤も見もの。しかしただの推理小説ってわけでもない。
なにより「世界的に有名なあの名探偵」が登場しちゃうという驚き。かなりビックリしたが、こういう展開は好きだ。
読者への挑戦だけでなく、探偵小説がお好きな方にも強くオススメしたい。
言ってしまうと霧舎巧さんの他シリーズの登場人物が出てくるのだが、他シリーズを読んでいなくても問題なく楽しめるのでご安心を。というわけで、『名探偵はもういない』は霧舎巧さんの最初の一冊にもオススメである。
5.『星降り山荘の殺人』
騙されることに快感を覚える作品である。
雪で閉ざされた山荘に、クセの強い人物たちが集まり、殺人事件が発生してしまう。
そんな本格ミステリお決まりの設定がなんとも嬉しい今作だが、ちょっと面白い仕組みが施されている。各章の冒頭で、著者からヒントが提示されるのである。
例えば、「次の章では〇〇な事が起きますが、〇〇には関係ありません」みたいに丁寧に提示してくれるのだ。なのに読者は騙されてしまう。
しかし「やられた!」というより「お見事!」という気持ちの良い騙しなので、変に疑わずにありのままにドンデン返しされよう。
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6.『人形はなぜ殺される』
高木彬光(たかぎあきみつ)さんの〈神津恭介シリーズ〉の一つ。シリーズの中でも最高傑作と名高い名作である。
人形を破壊した後、その人形と同じように殺人が行われていく。いわゆる見立て殺人である。ズバリ、「犯人はなぜそんな事をするのか」に注目して読んでみよう。
「古き良き推理小説」という言葉がぴったりであり、時代を感じさせる作風がなんとも心地よい。1955年の作品なのだが、こういう作品を読むと名作は色褪せないという事がよくわかる。
人形はなぜ殺されたのか、が分かった瞬間は鳥肌モノである。ぜひ堪能していただきたい。
また、同著者の傑作『刺青殺人事件』にも「読者への挑戦状」が含まれているので、ぜひ合わせてお読みいただくことを推奨する(『刺青殺人事件』が最高傑作との声も多い)。
7.『占星術殺人事件』
島田荘司さんを代表する〈御手洗潔シリーズ〉の一作目。
六人の若い女性をバラバラにし、そのパーツを組み合わせて完璧な女性を作る。そんな猟奇的事件に、クセの強い、だけど天才的な名探偵・御手洗潔(みたらいきよし)が挑む。
国内ミステリー小説の中でも長きにわたって語り継がれる「名作」であるので、読んでおいて損という事はまずありえない。むしろ必読である。
ただそれだけ有名であるため、各地で蔓延しているネタバレに気をつけよう。存在を知ったらすぐに読む事を推奨する。
この一作目で御手洗潔シリーズの魅力に取り憑かれてしまったなら、続く二作目『斜め屋敷の殺人』、三作目『異邦の騎士』までをワンセットとして続けて読んでみよう。素晴らしい世界がそこには待っている。
8.『猫間地獄のわらべ歌』
ミステリ小説と時代小説が合体し、突然変異を起こしてトンデモない作品になってしまった。確かに異質であるが、面白いミステリー小説であることには変わりない。
江戸時代を舞台とし、密室に始まり、館モノであり、首なしがあり、見立てあり、メタミステリであり、読者への挑戦状があり、あらゆる本格要素をぶち込んでいながら、バカバカしさも満載である。
中盤くらいまでは「なんだこれ、こんなのどこが面白いんだ?」と思われるかもしれないが、最後まで読むと「お見事!!」と褒め称えてしまうことになるだろう。
9.『屍の命題』
素晴らしきバカミスである(バカミスとは、そんなバカな!と思わせてくれるトンデモトリックを魅せてくれる作品のこと)。
雪で閉ざされた山荘を舞台に、集められた六人が全員死体となって発見される。アガサ・クリスティの名作を彷彿とさせる、そして誰もいなくなっちゃう展開をぜひ目にしていただきたい。
いかにもな本格設定が整っておきながら、笑ってしまうほど強烈なトリックをぶちかましてくれる。ただただ、面白いのだ。私はあの真相を読んでいる最中ニヤニヤが止まらなかった。
そして「そんなのアリかい!!」と叫ぶのだ。
確かに変化球きわまりないが、ミステリー小説として傑作なのは間違いない。
10.『蝶々殺人事件』
横溝正史さんといえば〈金田一耕助シリーズ〉が有名であるが、この『蝶々殺人事件』は〈由利先生シリーズ〉の一作目である。知名度はやや劣るが、こちらのシリーズも忘れてはいけない。
世界的ソプラノ歌手・原さくらが公演を前に行方不明になり、その後コントラバス・ケースの中から死体となって発見される。
イギリスの推理作家・クロフツの名作『樽』を意識して書かれたという屈指の名作である(クリスティっぽくもある)。もし未読であれば、先に『樽』を読んでいた方が楽しめるかもしれない。これに合わせて鮎川哲也さんの『黒いトランク』を読むとなお良し。
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死体移動の謎を含めた大小あるトリックはいずれも逸材であり、それらを絡め取るようにスッキリ解決していく終盤も見事である。
11.『○○○○○○○○殺人事件』
はっきり言って読者を選ぶ作品である。評価が別れるのも納得するしかない。しかし、面白い作品である。
まず冒頭。
今回諸君に取り組んでいただくのは、犯人当てでも、トリック当てでも、動機当てでもなく、タイトル当てである。
○の数は伏せられている言葉の字数に対応する。したがって八文字ということになるが、これは漢字かな混じりで八文字という意味だ。どれを漢字にするかで字数にズレが生じる可能性もあるので、すべてひらがらに直した場合の字数も挙げておくと、十三文字である。
9ページより
というように、今作は「タイトル当て」に挑戦するミステリー小説なのである。なんと奇怪なことだろう。
孤島を舞台にしたクローズドサークルでいかにもな本格の雰囲気を漂わせておきながら、まさかのトリックをぶちかましてくるのだ。さすがメフィスト賞を受賞するだけある。
確かにバカバカしいのだが、しっかり本格ミステリしているところがニクい。
※お下品な表現が苦手な方は注意しよう。
12.『殺しの双曲線』
アガサ・クリスティの名作『そして誰もいなくなった』をオマージュした、西村京太郎さんの最高傑作である。
閉ざされた雪の山荘で招かれた人々が次々に殺されていく、という本格ミステリー小説であり、一風変わった読者への挑戦で楽しませてくれる作品なのだ。
この推理小説のメイントリックは、双生児であることを利用したものです。 何故、前もってトリックを明らかにしておくかというと、昔から、推理小説にはタブーに似たものがあり、例えば、ノックス(イギリスの作家)の「探偵小説十戒」の十番目に、「双生児を使った替え玉トリックは、予め読者に知らせておかなければ、アンフェアである」と書いてあるからです。
『殺しの双曲線』 6ページより
なんと冒頭で「メイントリックに双子を利用している」と宣言しているのだ。しかし、私たちはそれがわかっていながらも真相を見抜くことができない。
完全にお手上げである。ただ純粋に「面白い本格ミステリが読みたい」という方はぜひ読んでみてほしい。
おわりに
今回選ばせていただいた作品は、単に「読者への挑戦状」が挿入されているというだけではなく、一つのミステリー小説として名作だと思えるものばかりである。
たとえ「読者への挑戦状」に興味があまりなくても、ミステリー小説をお好きであるなら一度お手に取ってみることを強くオススメする。
それでは、最後までありがとうございました。
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