著者の北村薫(きたむらかおる)さんといえば「円紫さんシリーズ」というミステリ作品でおなじみだが、こちらの「覆面作家シリーズ」もぜひおすすめしたい。
「円紫さんシリーズ」と同じく〈日常の謎〉をメインとしたシリーズなのだが、登場するキャラクターたちのやり取りがとにかく楽しいのだ。
しかも楽しいだけでなく、ミステリにおける論理的推理もしっかりしているのも素晴らしいところ。
面白くて気軽に読めるミステリが読みたい!という方にぜひおすすめしちゃうぞ☆
『覆面作家は二人いる』のあらすじ
①編集者の岡部良介が属する《推理世界》に、「新妻千秋」という人物から一つの作品が送られてくる。
②いろいろ不可思議な部分があるがまあまあ面白いので、「この人に直接会ってきて!」と先輩に言われた良介はしぶしぶ書かれた住所の元へ。
③するとそこには超豪華なお屋敷が(執事付き!)。しかもこの作品を書いたのはここに住むお嬢様(可愛い)だという。
④そんなわけで新妻千秋と話をはじめた良介は、そこで自分の身の回りで起こった不思議な事を話してみる。
⑤すると、千秋は話を聞いただけであっさりと解決してしまった。
⑥もしかしたら……と思った良介は、刑事である兄から聞いた殺人事件のことを千秋に話してみる。するとお嬢様は・・・。
という感じ。
これが『覆面作家は二人いる』に収められた連作短編の一話目、「覆面作家のクリスマス」のあらすじである。
抜群過ぎるお嬢様のキャラ
なんといっても、この作品の魅力はお嬢様のキャラクター性にある!
良介から殺人事件の話を聞いた千秋は、何を思ったのか、すぐに事件の起きた女子校の寮に行くという。
仕方なしにお嬢様についていく良介だが、屋敷の外に出た途端、とんでもないものを目にすることになるのだ。
「新妻さん」
千秋さんはぴたりと足を止め、振り向いた。
「やめてくれよ」
「は?」
「は、じゃないよ。いやだから、やめてくれっていってるんだ」
別人かと思った。だが間違いなく、あのどきりとするほど可憐なお嬢様である。その描いたように形のいい眉がキリキリと寄せられている。寒風が二人の間で、ひゅうっと鳴った。
43ページより
屋敷の中ではあれほど可憐だったお嬢様が、まるで別人のように性格が変わってしまったのである!
というようにこの作品は、屋敷の外に出たら性格が豹変してしまうお嬢様・千秋と、そんな千秋に振り回される良介を中心とした連作短編ミステリーというわけだ。
しかもお嬢様のほか、良介や執事さん、良介の兄・優介も含めて、登場人物たちがみな魅力的なのだ。ミステリとしてももちろん面白いが、単純にキャラクター小説として楽しめてしまうのである。
むしろ、ミステリよりそっちがメインで読んでしまう。彼らのやり取りがとっても面白いのだ。
ちなみにお嬢様の豹変ぶりがあまりに凄まじいので、「お嬢様双子説」が浮かび上がるほどである。はたして、千秋は双子なのか……?というところにも注目して読んでみよう。
続編もあるよ
この「覆面作家」シリーズは、全三作品。いずれも連作短編となっている。しかも文章がとても読みやすく、ユーモアに溢れてるので楽しく読むことができる。
きっと一気読みしてしまうことだろう。
そしてこのシリーズは、二作目『覆面作家の愛の歌』、最終巻『覆面作家の夢の家』へと続く。
どの話も面白いが、特に最終巻『覆面作家の夢の家』のラストは本当に良いものだった。
一作目を読んでお嬢様の魅力にとりつかれてしまった方は、ぜひシリーズを最後まで見届けていただきたい。
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