この方も、また狂気的な世界観がお得意な作家さんである。
グロい・痛い・気持ち悪い・の三拍子揃ったホラー短編が平山夢明さんの持ち味。
当然ただグロいだけでなく物語そのものに面白さがあり、ホラー小説とは思えない読後感を残すお話も多い(ただひたすらに読後感の悪いお話も多い)。
今回は7作品も選んでしまったが、どれも平山夢明さんらしさを存分に堪能できるものとなっている。
参考にしていただければ嬉しい。
1.『独白するユニバーサル横メルカトル』
平山夢明さんの作品の中で何を最初に読んだらいいか迷ったら、とりあえずコレを読んでおこう。
救いのない、残酷度100%の世界を描いた作品集である。
2007年度の「このミステリーがすごい!」で1位となっているが、ミステリー小説として読む作品ではない。気分が悪くなりたい時に読む作品なのだ。
「狂気」というテーマは共通しているが、それぞれ異なった読後感を味わうことができ全く飽きがこない。中にはグロテスクなのに読後感が良い物語もあったりする。なんとも奇妙だ。
個人的に好きなのは『ニコチンと少年』『Ωの聖餐』『独白するユニバーサル横メルカトル』、特に『無垢の祈り』は傑作と呼べる域である。
ただいくら面白かったからといって、友人にオススメすると距離を取られる可能性があるので注意しよう。
幸いにも、わたしには本をオススメしたりする友人がいなかったので、友人を失うことはなかった。危ないところであった。
2.『デブを捨てに』
グロまみれで気持ち悪いお話を読んだはずなのに、なぜか読後感はスッキリしてしまうのが平山夢明さんの面白さである。
この4編からなる作品集もブラック極まりないのだが、程よくユーモアさが取り込まれていて楽しく読めてしまうのが不思議だ。
気持ち悪いどころが「ああ、良い話だったな……」なんて思ってしまうのである。そんな風に思ってしまう自分が怖い。
特に表題作の『デブを捨てに』なんかは笑っちゃうくらいだからね。このくらい突き抜けてくれると逆に気持ちが良いというものだ。
昔捨てた娘から手紙が届いた、という職場のおっさんに付き添いを頼まれ、なぜか一緒に会いに行くことになった青年。しかしその娘はまさかの有名大家族になっていて、テレビの取材まで行われるという。
そんなどこかで見たような大家族の裏を描く『マミーボコボコ』のふざけっぷりも最高である。おお、ゲスい。ゲスい。
この作品を楽しめてしまったなら、〈イエロートラッシュシリーズ〉の第二弾『ヤギより上、猿より下』もどうぞ。
3.『ミサイルマン』
7編からなる鬼畜短編集。
純粋に面白いSF短編『テロルの創世』。
女吸血鬼に熱をあげる男のクレイジーなお話『Necksucker Blues』。
出だしからぶっ飛んでいるが、実は究極のラブロマンスな『それでもおまえは俺のハニー』。
などなど、どれも安定した面白さを誇るものばかり。
中でも、死を悟った女性が死ぬ間際に見せる不思議な力を集める男を描いた『枷(コード)』、快楽殺人を繰り返す二人がある女性を殺害したことでとんでもない事態に陥る『ミサイルマン』の二つは特に名作。
『枷(コード)』はグロさも満点で物語も鬼畜。なぜこの設定を思いついてしまったのか。
『ミサイルマン』はやっている事は狂っているのに、なぜか青春小説を読んだ時のような読後感が残る。不思議だ。
4.『他人事』
安定の鬼畜短編がなんと14編も。平山さんファンには贅沢極まりない一冊である。
しかも一遍一遍の読み応えがいちいち凄まじいので疲れる。食欲も失せる。
読んでいるこっちが「痛い!痛い!」と叫んでしまうような話が多め。気分が悪くなるが、なぜか読む手がは止まらない。
特に、義足の女性に降りかかる悲劇を描いた『仔猫と天然ガス』は完全にイカれている。「最悪すぎて笑ってしまう」という貴重な体験ができる数少ないお話だ。なぜこんなものを書いたのか。
こんなお話を書いてしまう平山さんもヤバイが、そんな平山さんの作品を好きな私も頭がおかしいのかもしれない。
5.『暗くて静かでロックな娘』
ある程度平山さんの読んでいないとキツイかもしれない。
もう私には平山耐性がある!と余裕をこいていた私をどん底に突き落とした10編からなる短編集。
胸糞悪さが増量している。これ以上、胸糞悪くしてどうしようというのか。
基本的に残酷度MAXだが、『チョ松と散歩』のような意外性のあるお話もあってちょっと救われた。と思ったが『オバケの子』はダメだ。これは読むべきではなかった。
絶対に知人におすすめしてはいけない。間違いなくドン引きされる。
6.『メルキオールの惨劇』
これまで短編集ばかりだったが、この作品は珍しく長編となる。
不幸な死に方をした人の遺品を集める男・オギー。
そんなオギーに、自分の子の首を切断した女の調査を依頼された「俺」の物語。
つまりは「なぜ我が子にそんなことをしたのか」をその女性に問い詰めていくわけである。
この女性には他にも二人の子供がいるわけだが、この家庭自体がなかなかヤバイ。しかもなかなか口を割らず調査は難航。
さらにあれよあれよと自体は思わぬ方向に……。
胸糞悪さで言えば、他の短編集に比べてこれでも抑えられている方。しかしその分エンターテイメント性がアップしており、一気読みさせられてしまうこと間違いなしだ。
7.『ダイナー』
事務用品問屋に勤めている「オオバカナコ」という女性が、大金欲しさから携帯闇サイトのアルバイトに応募をしてしまう。
そんなカナコを待ち受けていたのは「プロの殺し屋たちが集まる会員制ダイナー(食堂)」でウェイトレスとして働くこと。
少しでもミスをすれば殺されてしまう。そんな死と隣り合わせの場所で働くオオバカナコの物語である。
確かに残酷描写はある。ぶっ飛んでもいる。
だがこの作品はそれらを超越したストーリーの面白さがあるのだ。
エンターテイメント性に関しては『メルキオールの惨劇』より高く、一度読み始めてしまえば読む手が止まらなくなるほどだ。「純粋に面白い小説」といってもいい。
他の短編集でおなじみの救いのなさもほとんどなく、むしろ「読んでよかった」と思える読後感にさせてくれる。
オオバカナコの精神力、ダイナーのオーナー・ボンベロ、次々にやってくる殺し屋の皆さんなど、登場人物たちが魅力的に描かれているのも楽しいポイント。
平山夢明さんならではの「最高のエンターテイメント」をぜひ目にしていただきたい。
おわりに
平山夢明さんの作品を読んでいると、たいていのグロ小説は平気になってくる。
嬉しいような、悲しいような。
もしこの狂気がお好きであれば、小林泰三さんの作品もきっと気に入っていただけるだろう。
参考にしていただければ幸いである。
オススメしておいてなんだが、こんな世界にのめり込むのもほどほどに。。
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