あなたは本当に本を愛しているのか?本の存在を考えさせられる『本を守ろうとする猫の話』

夏川草介(なつかわそうすけ)さんといえば『神様のカルテ』というシリーズ小説で有名な作家さんである。

先日、そんな夏川さんの新刊『本を守ろうとする猫の話』が発売された。

もう表紙の雰囲気からツボである。私の好きな「猫」と「本」が一緒になっているんだから面白いに決まっているだろう。

この作品は、林太郎という少年がネコに連れられて4つの迷宮を旅するファンタジー小説で、テーマはずばり、「本」。

「本」が好きな方にぜひオススメしたい作品だったので、ここで簡単にご紹介させていただきたい。

『本を守ろうとする猫の話』のあらすじ

この作品の主人公は林太郎という高校生。

本が大好きだった祖父を亡くした彼は、祖父の残した古書店に一人で残っていた。

すると、どこからともなくネコが現れる。そして、しゃべった。人間の言葉を、しゃべった。

トラネコの「トラ」と名乗るそのネコは、林太郎に「力を貸して欲しい」と言う。

「お前の力を借りたい」

唐突な言葉が、吐き出された。

「力?」

「そうだ、お前の力だ」

「力って何を……?」

「ある場所にたくさんの本が閉じ込められている」

(19ページより)

わけもわからぬまま、店の奥へと歩いていくネコについていく林太郎。

すると眩い光に包まれ、気が付けば見たこともない迷宮へとたどり着いていた。

林太郎が訪れる4つの迷宮

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ネコに導かれて異世界に行っちゃった、というなんと王道なファンタジーだろう。こういうパターンは大好きだ。

しかし、この作品は剣と魔法のファンタジーではない。

林太郎は、これから訪れる4つの迷宮で4人の人物を会うことになる。彼らは「本」というものに対して強い考えを思っており、林太郎は彼らの「本に対する考え」と討論を繰り広げていくのだ。

今回は、第一の迷宮「閉じ込める者」について考えていこう

林太郎が第一の迷宮で出会うのは、毎月百冊もの本を読むという読書家の男。

確かに彼の書斎を見回してみると、膨大な数の量の本がショーケースに入れて飾られていた。しかもショーケースには鍵までかかっている。

さらに彼は言った。「私は同じ本は二度と読まない」と。

「君は何も聞いていなかったのかね?私は毎日新しい本を読むことに忙しい。毎月のノルマを達成するだけでも大変なのだ。一度読んだ本を二度も読み返す暇などないのだよ」

(40ページより)

同じ本を何度も読むことは時間の無駄か?

正直言うと、私はこの男の言うことが結構わかってしまう。

私も子供の頃から本を読み続けてきたが、それでも今なお、私の周りは読みたい本で溢れている。

過去に出版された名作の数々に加え、毎日のように新しい本が世に出ている。1日1冊読んでいても、読みたい本が増えるペースのほうがはるかに速く、とてもじゃないが追いつかない。

そんな時、少しながら思ってしまう。「どうせ読むなら、同じ本ではなく新しい本を読んだほうがいいのではないか」と。

しかし、本当にそれで良いのだろうか。

同じ本を何回も読むことは本当に時間の無駄なのだろうか。

確かにその気持ちはすごくわかる。しかし、やっぱり同意はできない。

私には、何度でも、おそらく死ぬまで何回も読み返したい本がたくさんあるからだ。

沢木耕太郎さんの『深夜特急』、綾辻行人さんの『十角館の殺人』、辻村深月さんの『スロウハイツの神様』、スティーヴン・キングの『書くことについて』、ハインラインの『夏への扉』……、その作品名をあげたらきりがない。

好きな本というものは、何度読んでも面白いものである。決して時間の無駄なんかではない。

むしろ「何度でも読み返したい本」と出会えるということは非常に幸せなことだと私は強く思う。そう簡単に出会えるものではない。というより、「何度でも読み返したい本」と出会うために本を読んでいるとも言える。

私は第一の迷宮の人物を出会い、そんな本に対する考えを見つめ直すことができた。非常に濃厚な読書時間であった。

さらなる迷宮へ

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しかし、第一の迷宮はほんの始まりにすぎない。

この『本を守ろうとする猫の話』という作品は、そんな「本に対する考え方」を改めて見つめ直すことのできるお話が4つ詰まっている。

第一の迷宮では、本をたくさん読めば読むほど良い、と考える「閉じ込める者」と出会う。

第二の迷宮では、「切りきざむ者」と出会う。

第三の迷宮では、「売りさばく者」と出会う。

そして最後の迷宮では……。

どの迷宮で出会う人物も、その人なりの「本の考え方」を持っている。彼らの考えを聞いて、あなたならどう思うだろうか。それは絶対に間違っている、と心から言えるだろうか。ぜひ試してみてほしい。

そして、自分が本に対してどのような想いを持っているのか、改めて考えてみていただきたい。

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