夏といえばホラー小説である。
別に夏でなくても、ホラー小説を読みたくなる時がある。
実話怪談集でも小説でもなんでも良いので、
「とにかく怖くて面白いホラー作品を読みたい!」
という方は今回ご紹介する中からお手に取ることを強くおすすめする。
目次
- 1.『拝み屋郷内 花嫁の家』
- 2.『懲戒の部屋―自選ホラー傑作集』
- 3.『青蛙堂鬼談 – 岡本綺堂読物集二』
- 4.『残穢』
- 5.『屍鬼』
- 6.『鼻』
- 7.『熱帯夜』
- 8.『霧が晴れた時』
- 粘膜人間 「粘膜」シリーズ
- 『夜波の鳴く夏』
- 『憑き歯 密七号の家』
- 『ぼぎわんが、来る』
- 『二階の王』
- 『首ざぶとん』
- 『私はフーイー 沖縄怪談短篇集』
- 『神鳥(イビス)』
- 『玩具修理者』収録「酔歩する男」
- 『大江戸怪談 どたんばたん』
- 『独白するユニバーサル横メルカトル』
- 『黒い家』
- 『よもつひらさか』
- 『ぼっけえ、きょうてえ』
- 『岡山女』
- 『お見世出し』
- 『祇園怪談』
- 『ついてくるもの』
- 『ナポレオン狂』
- 『怪談新耳袋 第四夜』収録「山の牧場」
- 『丘の屋敷』
- 『エドワード・ゴーリーが愛する12の怪談』
- 『闇の展覧会 霧』
- 『隣の家の少女』
- 『鳥―デュ・モーリア傑作集』
- 『黒衣の女 ある亡霊の物語』
- 『黒猫・アッシャー家の崩壊―ポー短編集』
1.『拝み屋郷内 花嫁の家』
さて、いきなり問題作である。
日本のホラー作品の中でもずば抜けて恐ろしい物語であり、もしランキングをつけるならダントツの一位である。
この作品を読んでほしいためにこの記事を書いた、と言っても良い。
拝み屋を営んでいる著者が実際に体験した話を綴った「花嫁の家」と「母様の家」の2篇からなる怪談実話集である。
このような作品を世間に公開していいのか、と思うほどに衝撃の内容が描かれている。
できる限り他のレビューを見ず、ほぼ予備知識のない状態で読んでいただきたい。絶対、と言っていいほどその方が楽しめる。
本業が作家でもないのに文章がうますぎる。読ませる力が半端ではないのだ。
こんなものを私が実際に体験したら間違いなく気が狂うだろう。
この作品と出会うまでは「幽霊より結局人間が一番怖いよねタイプ」の人間だったのだが、これを読んだあとは「結局、得体の知れないものが一番怖い」と思うようになっていた。
人間なんて可愛いものだ、と思えるようになる。
本当に怖いのは人間のほうだ、という方にぜひ読んでいただきたい。
果たして、この作品を読んでもそんな事を言っていられるだろうか。
2.『懲戒の部屋―自選ホラー傑作集』
筒井康隆さんの自選ホラー集。傑作の集まりである。
幽霊が怖いとか人間が怖いとか、そういうジャンルにとらわれない奇妙な物語ばかりが描かれている。
「理不尽・残酷・狂気の3種盛り」といった感じだろう。
執拗に追いかけてくる力士から必至で逃げるサラリーマンを描いた『走る取的』は映像化された事でも有名。筒井さんの文章で読むと余計に怖い。
無賃乗車をした男の悲惨な運命を描く『乗越駅の刑罰』は、そりゃもう一周回って笑ってしまうくらいのカオスな物語だ。ぜひ一見を。
3.『青蛙堂鬼談 – 岡本綺堂読物集二』
完全にもっと読まれるべき作品である。
雪の夜、青蛙堂に集められた者たちによって語られる怪異談。十二編。
まるで昔話を聞くような、いかにも「怪談」という感じがたまらない。
中でも有名な『一本足の女』は怪談好きなら読まなきゃ大損だ。というわけで私も『一本足の女』目当てで購入したのだが、なんと他の話もすこぶる面白いではないか(『猿の目』『蟹』辺りが特に好き)。
そしてとにかく雰囲気がよい。読み始めた瞬間から、青蛙堂のその場で一緒に怪談を聞いている気分になれる。これこそ面白いホラーの醍醐味だ。
雰囲気を最大限に楽しむためにも、本書は「真夜中に部屋の電気を決して、ロウソクの明かりだけで読むこと」を強くおすすめする。
私は本当にこれを実践した。雰囲気が出すぎて途中でやめた。
4.『残穢』
日本特有のじっくりネットリした怖さを味わえるドキュメンタリー風ホラー。
この物語が恐ろしいのは、自分はなにもしていないのに怪異に巻き込まれてしまう理不尽さにある。
肝試しをして取り憑かれてしまいました、呪いのビデオを見て呪われてしまいました、ではないのだ。
特別なこともせず、普段通りの生活をしていても知らないうちに穢れてしまうのだ。
自分もこういう事に巻き込まれてもおかしくはない。そう思わされる怖さがある。
映画化もされたが、やはり原作を読む方が数倍怖い。小説としてストーリーを楽しむというより、純粋に「怖さ」を求める方にオススメだ。
5.『屍鬼』
続いても小野不由美さん。
怖さのみで言えば『残穢』に軍配が上がるが、小説としての面白さと壮大さで言えば『屍鬼』だろう。
隔離された閉鎖的な村で発見された三体の腐乱死体。果たしてこれは、誰の仕業かーー。
文庫で全5巻というボリューム。よく「1巻で挫折した」とか「もっと短い話にできる」などという意見があるが、まあ確かにその通りとも言える。
サクッと気軽に楽しみたい、という方や、「テンポの良さ」を求める方にはまず向かないだろう。
しかーし!!「じっくり深く小説の世界に入り込む」という読書体験が好きな方にはとてもオススメだ。
長い物語であるが、無駄な部分なんてない。無駄だと思える部分があるからこそ、この作品の深さがますのだ。
蛇足ではあるが、今作はスティーヴン・キングの名作『呪われた町』に影響を受けて書かれたことでも有名である。
『呪われた町』も本当の本当に面白い作品であるので、未読であればぜひ一読することを推奨したい。

6.『鼻』
『暴落』『受難』『鼻』の3編からなる短編集。
3編ともタイプの異なるホラーであるが、どれも「よくそんな世界観を思いつきますね」と感心してしまうほどに狂っている。
幽霊的な怖さではなく、「狂気的」「後味が悪い」「異常な世界観」などを楽しむ作品だ。純粋にストーリーが面白い。
特に表題作『鼻』は、読後に思わず最初から読み直してしまうほどの面白さがある。こういう体験ができるから読書はやめられない。
7.『熱帯夜』
これも決して怖い作品ではない。しかし、とてつもなく「巧い」。
『熱帯夜』『あげくの果て』『最後の言い訳』の3編からなる短編集であり、いずれも短いページ数ながら密度が凄まじい。濃厚なのにもほどがある。
どう読んでも、ブラックユーモア短編集として傑作なのだ。
曽根さんといえば『鼻』が有名であるが、今作も間違いなく同レベルの面白さを誇る。
『鼻』を楽しめたら『熱帯夜』を、『熱帯夜』を楽しめたら『鼻』を。
8.『霧が晴れた時』
あまりにも有名な「くだんのはは」が収録された、小松左京氏の自選ホラー集。
豪華。超豪華。そして上質。
面白いホラー短編を読みたいなら、まず読んでおいて間違いなし。迷ったらこれを読んでおけ!というくらいにオススメ。
SFテイストの不思議なお話でありながら、どれも身にしみるような恐怖を味わえるものばかり。
表題作「くだんのはは」はもちろん「召集令状」「消された女」「秘密(タプ)」「骨」「影が重なる時」辺りは絶品。
粘膜人間 「粘膜」シリーズ
このシリーズ、明らかに異様である。
読めばすぐにわかるが、他のどのホラー作品と比べてもぶっ飛んでいる。
この世界観が無理な方にはとことん無理だろう。逆に、一作目『粘膜人間』を面白いと思っていただけたならシリーズ一気読みは確定だ。オメデトウ!
「グロい」「残酷」「スプラッター」「バイオレンス」などのキーワードが全部入っている。なのに読みやすく、テンポもよく、ついニヤリとしてしまうユーモアな場面も多々登場する。
こんな体験、「粘膜」シリーズでしかまず味わえない。
『夜波の鳴く夏』
知る人ぞ知る傑作。
怖いを通り越して感心してしまうくらい上手い。設定も発想も斬新で、このタイプのホラー小説は希少。
ぬっぺほふと呼ばれる妖怪を中心とし、飴村行氏の「粘膜シリーズ」に似たグロめな空気感だが、ジメジメ感はこちらの方が高め。
三津田信三氏の刀城言耶シリーズでお馴染みの村田修氏のカバーのイラストもたまらん。
『憑き歯 密七号の家』
著者がお化け屋敷プロデューサー、ということで当然のように怖い。
どうやったら人間が怖がるか、を熟知した書き方である。
王道な和風ホラーで、ジワジワヌメヌメした特有の恐怖を味わうことができる。
キーワードが「歯」っていうのが余計に不気味。
『ぼぎわんが、来る』
第22回日本ホラー小説大賞。
シンプルにただただ怖い、王道のジャパニーズホラーである。
「ぼぎわん」という得体のしれないものが迫ってくる恐怖を、圧倒的な筆力で見事に書ききっている。
著者・澤村伊智さんの作品は他にも
・『ずうのめ人形』
・『恐怖小説 キリカ』
・『ししりばの家』
とあるが、見事に全て面白いので、この『ぼぎわんが、来る』を楽しめたならぜひ他作品も手に取ってほしい。
『二階の王』
第22回日本ホラー小説大賞の選考で、澤村伊智さんの『ぼぎわんが、来る』と大賞を争ったという作品。
ひきこもりという現代社会の課題にクトゥルフ神話らしき要素を取り入れた怪作である。
『首ざぶとん』
首ざぶとん、というタイトルが異様に怖いのは私だけだろうか。
華道教室に通う「まりか」と、その教室の先生であり怪談蒐集が趣味の龍彦が怪異に巻き込まれていく……という連作短編集。
祟り、禁忌、怪異、といった、ねっとりまとわりつくような気味の悪さが楽しめる。「奇妙さ」の書き方がとてもお上手であり、話運びもうまい。
日常から非日常へと突然堕ちてしまうというのは、読んでいてやはりゾクゾクするものである。
それでいて朱雀門さんの作品の中でも特に軽い文体であり、スルスルと一気読みすることができる。朱雀門作品の最初の一冊にもおすすめ。
『私はフーイー 沖縄怪談短篇集』
恒川光太郎さんのホラー小説といえば『夜市』『秋の牢獄』『雷の季節の終わりに』などが有名であり、それはもう必読レベルで面白いのだが、私的には『私はフーイー 沖縄怪談短篇集』を強くオススメしたい。
タイトルにある通り、全て「沖縄」を舞台にしたホラー短編集である。
読む前は沖縄に良いイメージしかなかったのに、今作を読んでしまったおかげで沖縄に特別な怖さを抱くようになってしまった。
ただ怖いだけでなく幻想的であり、なんとも言えぬ余韻を残すのも恒川さんの良さ。『夜市』『秋の牢獄』と同じようで違う恒川ワールドにドップリと浸ることができる。
表題作も良いが、特に『夜のパーラー』がイチオシ。
それにしても、沖縄の雰囲気と恒川ワールドがこんなにも相性が良いとは。
『神鳥(イビス)』
篠田節子さんの最高傑作候補。
バイオレンス小説家の男性とイラストレーターの女性のコンビが、画家・河野珠枝が残した『朱鷺飛来図』という絵画の真相に迫る物語である。
簡単に言うと、ジャパニーズホラーとモンスターパニックものの良いとこ取りをしたような作品。つまり、面白く、怖い。
ホラー小説でありながらエンターテイメント性にもすぐれ、「怖い」と同時にストーリーが面白すぎて読むのをやめられないのだ。
そのため「ちょっと時間が空いたらか10分だけ読もうかな」なんてものは無理である。読む手が止まらないのだから。
最大限に楽しむためにも、時間がたっぷりある時に一気読みすることを推奨する。
『玩具修理者』収録「酔歩する男」
小林泰三さんの作品集『玩具修理者』には、表題作の他に『酔歩する男』という中篇が収められている。
まず表題作は、非常に短いお話の中でグッと引き込ませ、最後の最後で「ビシッ!」とオチを決める奇妙な物語のお手本のような作品である。
そしてもう一方の『酔歩する男』であるが、この作品で味わう「怖さ」はちょっと異常なものである。初めて読んだ時の衝撃は今も忘れられない。
タイムスリップを軸としたSFものなのだが、人間が手を出してはいけない「時間」というものの怖さを体の芯に植え付けられることになる。
タイムスリップといえば『時をかける少女』や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』など「ワクワクするもの」だと思っていた私の概念を完全にぶち壊した。トラウマである。
少し複雑であるのだが、しっかり読めば読むほどその恐ろしさが伝わってくるのだ。ぜひじっくりと読んでほしい。
『大江戸怪談 どたんばたん』
平山夢明さんといえば『独白するユニバーサル横メルカトル』『ミサイルマン』『ダイナー』などのグロホラー作品が有名であり、つまりはグロホラーの神様的存在であるが、この作品はそんな代表作といささかタイプが異なる。
タイトルの通り、江戸を舞台とした怪談が大騒ぎしている作品なのだ。
江戸時代と怪談の相性はなぜこんなにも相性抜群なのだろう。
江戸が舞台というだけで、現代のホラー小説にはない独特の不気味さと面白みが増している。
それでいて実話怪談風であり、昔話のようであり、因果応報ものであり、妖怪もあり、様々なタイプの怖さが味わえてしまう贅沢品なのである。
初めて読んだとき、「平山夢明さんって時代物もイケるやん!」と大いに驚いた。
ぜひこの世界観を味わうべし。
『独白するユニバーサル横メルカトル』
というわけで、平山夢明さんを代表すると言ってもいい短編集である。
ホラー小説と言うより「狂っている小説」だ。
お化けが怖いとか人間が怖いとか、そういうレベルの話ではない。まず万人受けはしないだろう。
しかし、ハマる人にはハマる。一度ハマってしまうと他の平山作品も一気読みすることになる。もちろん私もその一人である。

『黒い家』
貴志祐介さんの代表作にして、ホラー小説のおすすめとしては定番の一作。
「おすすめホラー小説○選!」などの記事では必ずと言っていいほど紹介されている常連さんである。
そんなにどこでもおすすめされるという事は、それだけ面白くて怖いという事実に他ならない。読んでおいてまず間違いないのだ。
ホラー小説といえば大まかに分けて「幽霊や呪いなどの得体の知れないものが怖いタイプ」と「幽霊なんかより結局人間が一番怖いよねタイプ」の2タイプあるが、『黒い家』は後者の代表作である。
『黒い家』に限らず、貴志祐介さんは「人間の怖さ」を描くのが絶望的に巧いので困る。本当に勘弁していただきたい。これ以上わたしを人間不信にしないでほしい。
このほか『クリムゾンの迷宮』や『天使の囀り』なども貴志さんの持ち味が存分に生かされていてオススメだ。

『よもつひらさか』
今邑彩(いまむらあや)さんは「ゾクッとする物語」を描くのが本当にお上手だとつくづく思う。
そんな今邑さんの名作ホラーミステリ短編集である。
正直言うと「めちゃくちゃ怖い」というものではなく、「奇妙な物語」という言葉の方がぴったりな作品集だ。しかし一話一話に読み応えがあり、面白く、ゾクッとさせるオチを決めてくれる贅沢品なのである。
本当に粒ぞろいだが、やはり表題作『よもつひらさか』の巧妙さよ。こんなの読んでしまったら今邑さんのファンになってしまうのも無理はないのだ。
これをきっかけに、ぜひ今村さんの作品を読み漁ってほしい。

『ぼっけえ、きょうてえ』
日本ホラー小説大賞も受賞した「おすすめホラー小説」の定番。
岡山弁という独特の語り口がより一層恐怖を増幅させれくれる、4編からなる短編集である。
確かに怖いのはもちろんだが、初めて読んだ時に思ったのは「怖い」より「巧い」だった。ホラー抜きにしても一つの「読み物」として名作なのである。
ストーリーそのものがとても魅力的で、短いお話でありながら引き込む力が半端ではない。それが独特の語り口調と見事にマッチしており、一度引き込まれたら読み終わるまでまず抜け出すことはできない。
こういう作品こそが「怖いだけでなく面白いホラー小説」と呼べるのだろう。
『岡山女』
『ぼっけえ、きょうてえ』と並ぶ名作である。にもかかわらず、知名度に大幅な開きがあるのはなぜだろう。
日本刀で切り付けられ左目失ったタミエは、その代わりに見えざるものが見えてしまうようになった。そんなタミエを主軸とした連作短編集である。
「怖さ」という点だけみればそれほどではないが、怪奇幻想小説としては一級品の面白さなのだ。
相変わらずの岩井志麻子ワールド全開でありながら、『ぼっけえ、きょうてえ』とタイプが違うのでぜひ両方読んでみてほしい。
『お見世出し』
『ぼっけえ、きょうてえ』とよく比べられる名作京都ホラー。京都弁ってだけでこんなに不気味になるから不思議である。
『お見世出し』『お化け』『呪扇』の3編どれもが面白いが、中でも『呪扇』は絶品。これだけでも読む価値大有りなのだ。こりゃ怖いというか狂っている。ただ、グロいのが苦手な方は注意しよう。
いずれも京都弁の語り口調であり、真夜中に京都の一室でろうそくを灯しながら怪談を聞かされている雰囲気になる。
雰囲気を最大限に楽しむためにも、ぜひ夜中に読んでみてほしい。
『祇園怪談』
森山さんは京都ホラーを描くのが本当に巧い。まるで祇園にワープしてしまったかのように現場の雰囲気を味わえてしまう。
それでいてミステリーでありサスペンス要素が強いため、グイッと一気読みさせる面白さがあるのだ。
『お見世出し』も同じ京都ホラーであるが、怖さのタイプがやや違う。この使い分けが見事である。
終盤の展開もナイス。ただし、グロ注意。
『ついてくるもの』
刀城言耶シリーズでおなじみの三津田信三さんによるホラー短編集。まさに日本らしい正統派ホラーである。
この作品に限らず、ホラー小説がお好きであれば三津田信三さんの作品を片っ端から読んでみよう。
他にも『怪談のテープ起こし』『のぞきめ』『どこの家にも怖いものはいる』辺りを読んでおけば間違いない。
そしてもし、ミステリに少しでも興味があるなら〈刀城言耶シリーズ〉をぜひ読んでほしい。ミステリとホラーの融合が見事な最高のシリーズである。

特に三作目の『首無の如き祟るもの』は傑作中の傑作であるので、ミステリ好きならば読まないと大損なのである。
『ナポレオン狂』
申し訳ないがこれは一般的なホラー小説ではない。
しかし、ある意味ホラー小説並みのゾクッ!とする感じが味えわえる短編集である。
とにかく「巧い」のだ。ストーリー展開が天才的に面白い。
阿刀田高さんならではのキレッキレのブラックユーモアが思う存分に味わえ、どのお話も最後にピリッとしたオチを決めてくれるのだ。
中でも表題作『ナポレオン狂』をはじめ、不老不死を手に入れたという男と出会う『サン・ジェルマン伯爵』、怪我をした主人のために自ら白タク業を行うフォルクス・ワーゲンを描いた『甲虫の遁走曲』などは極上品である。
この作品を読めば間違いなく阿刀田高さんのファンになっているので、続けて『冷蔵庫より愛を込めて』も読んでみてほしい。
『怪談新耳袋 第四夜』収録「山の牧場」
『新耳袋』という有名な実話怪談集シリーズがある。
その四作目に収められている『山の牧場』というお話が、そりゃもう他の怪談をなかったことにするくらい格別に不気味なのである。
まだ幼き私に「得体の知れない怖さ」という感覚を初めて植え付けたお話なのだ。
ある夏、学生たちが山中で偶然見つけた道なき道を車で登って行った。
すると道の先には草原が広がっており、2棟の牛舎と宿舎らしき建物があった。そんな牧場と思わしき場所で、学生たちはあらゆる奇妙な実態に出くわす、という話である。
この奇妙な実態というのが本当に奇妙であり、読み進めていくうちに「この牧場は一体なんなのか。この場所で何が起きたのか」と得体の知れない不安に包まれていくのである。
さらに。
同著者の新シリーズ『怪談狩り 禍々しい家』には、「山の牧場」の後日談が書かれている。ぜひ合わせて読んでほしい。
『丘の屋敷』
シャーリー・ジャクスンの代表作であり、幽霊屋敷小説の元祖である。
スティーヴンキングの代表作『シャイニング』もこの作品に影響を受けて書かれたことでも有名。つまり面白さは保証されているのだ。
心霊研究家の博士を含めた4人の男女が屋敷で起きる心霊現象の謎を解明しようとする、といういたってシンプルな始まり。
よくある幽霊屋敷小説に思えるが、『丘の屋敷』に潜む「恐怖」は他のどの作品とも異なる「魅力」があるのだ。残念ながらこの魅力は私の語彙力では表現できないため、「とにかく読んでみてくれ」としか言えない。
めちゃくちゃ怖い幽霊が登場するとかではなく、「何が怖いのかわからないけど、とにかく怖い」のだ。この体験をぜひしてみてほしい。
ああ、ゆっくり、ゆっくり、狂っていく。

『エドワード・ゴーリーが愛する12の怪談』
タイトルの通り、絵本作家エドワード・ゴーリーが厳選した怪奇小説アンソロジーである。
W.W.ジェイコブズ『猿の手』、C.ディケンズ『信号手』、W・コリンズ『夢の女』、B・ストーカー『判事の家』をはじめとした海外ホラーの名作が勢ぞろいしているのだ。
こんなに贅沢なアンソロジーも滅多にないだろう。
日本のホラー小説のような「絶望的に怖い」というものではなく「独特の奇妙さ」を味わえるのが特徴である。
訳のおかげもありとても読みやすいので、海外ホラーの入門書としてもピッタリ。
「とりあえず海外ホラーの名作を読んでみたい」「海外ホラーで何か面白いのが読みたい」という方に超おすすめなのだ。
『闇の展覧会 霧』
スティーヴン・キングのホラーはどれも面白い。
『ミザリー』『キャリー』『シャイニング』『呪われた町』など多くの名作ホラーが存在し、一番を選ぶのは困難を極める(むしろ全部読むべきである)。
しかし私は中編の『霧』をおすすめしたい。
後味の悪い映画で有名な『ミスト』の原作である。
読んでいただけばすぐにわかるが、文章で読む『霧』は映像で見る『ミスト』と全く異なる怖さがある。
映画ではスーパーマーケットに閉じ込められてからが本番と言う感じだが、原作『霧』はその前の霧が発生する様から怖い。異様な「霧」の表現がなんとも不気味なのだ。
映画を観た方も観ていない中も、文章で読む『霧』の怖さをぜひ味わうべし。

『隣の家の少女』
とにかく後味が最悪なのである。これほど「読まなければよかった」と思わされる小説も珍しい。
怖いというより、ひたすらにイヤな物語なのである。
「なんでこんな話書いたんだよ!」と読まさていただいたのにもかかわらず、思わず逆ギレしてしまうほどイヤな物語だ。
きっとあなたが求めているホラー小説ではないだろう。しかし、読んでみてほしい。私と同じ気分を味わってほしい。つまり道連れだ。
どんなに気分が悪くなろうとも、おすすめした私を責めないでほしい。
『鳥―デュ・モーリア傑作集』
ヒッチコックの映画でお馴染みの表題作『鳥』を収めた作品集。
『鳥』は、ある日突然「鳥」が人間を襲い始める、というただそれだけの物語である。
幽霊も化け物も殺人鬼も登場しない。まさかのオチもない。
しかし、とてつもなく怖いのである。
冒頭から終わりまで一瞬の休みもなく怖い。「得体の知れない異変」の描き方が巧すぎるのだ。まず一気読みは間違いないだろう。
私も映画は何回も観たが、文章で読む方が想像力が働くぶん余計に恐ろしい。
鳥が人間を襲い始めるというただそれだけの物語を、こんなにも恐ろしく文章で表現してしまう凄さよ。
『黒衣の女 ある亡霊の物語』
「英国ゴースト・ストーリー」という言葉がふさわしい王道の海外ホラーである。
『ウーマンインブラック 亡霊の館』という題名で映画化もされているので、ご存知の方も多いだろう。
映画も良かったが、やはりこの作品も文章で読んだ方が面白い。
老婦人の遺産整理のため、不気味な館に宿泊することになった弁護士キップス。しかし深い霧に包まれた館でキップスは世にも恐ろしい体験をすることになる。
と、非常にシンプルなゴシックホラーだ。
ストーリーの面白さもあるが、何より館の不気味さを煽る文章が巧い。情景描写が絶妙すぎて、読んでいるこちらも主人公と一体になって体験をしている気になってしまうのである。
そして改めて「亡霊の恐ろしさ」というものを思い知らされるのだ。最後まで読むと、このストーリーがいかに計算されて組み立てられているかがわかる。
つまり、傑作。
『黒猫・アッシャー家の崩壊―ポー短編集』
エドガー・アラン・ポーの傑作短編集「ゴシック編」である。
有名な「黒猫」「アッシャー家の崩壊」をはじめ、「赤き死の仮面」「ライジーア」「落とし穴と振り子」「ウィリアム・ウィルソン」の計6編が収録。
いずれも幻想的であり、怪奇的であり、ポーならではの「気味の悪さ」が存分に味わえるのだ。
オチのつけ方も巧みであり、いつまでたっても嫌な後味が残るようになっている。それでも何度も読んでしまうのは、読むたびに新しい楽しさを発見してしまうからだろう。
中でも『黒猫』は特にサクッと読め、ストーリーとしても絶品だからとてもおすすめだ。
あとがき
以上が『【最恐】本当に怖いおすすめホラー小説・実話怪談35選』となる。
これからもっと面白いホラー小説に出会うことができれば、その度に追加していく予定だ。
参考にしていただければ嬉しいことこの上ない。
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