2017年「このミステリーがすごい!」で見事一位となった竹本健治さんの『涙香迷宮』。
その探偵役であるIQ208の天才囲碁棋士・牧場智久(まきばともひさ)の初登場作品こそ、この『囲碁殺人事件』である。
その後『将棋殺人事件』『トランプ殺人事件』と発売され〈ゲーム三部作〉と呼ばれることとなる。
そんな〈ゲーム三部作〉が、このたび講談社文庫さんより三ヶ月連続刊行となったのだ!嬉しい限りである。
二作目『将棋殺人事件』は三月十五日発売予定、三作目『トランプ殺人事件』四月十四日発売予定とのこと。この機会にぜひ一作目から読んでみよう。
『囲碁殺人事件』あらすじ
①「碁の鬼」との異名を持つ槇野九段と、新時代の旗手・氷村七段の対局が甲府の旅館で行われた。
②その一日目は、槇野九段のほぼ圧倒的な一手で終わりを告げた。もはや槇野九段の価値は決まったようなものである。
③しかし二日目。対局の時間になっても槇野九段が現れない。
④そしてその後、近くの滝の岩場で首なし死体となった槇野九段が発見される。
⑤それを知った牧場智久は、この事件を予告殺人と推測。実は事件の前、囲碁の部屋で鬼の首の形をした盤面を智久は目撃していたのだ。
そんな事件に挑むのは、天才囲碁棋士・牧場智久・・・だけではない。彼の姉である智久の姉・典子と、大脳研究者の須堂も一緒に推理していくこととなる。
IQ208の天才囲碁棋士・牧場智久というキャラ立ち十分の少年がいながら、彼だけを探偵役としないのも面白いところだ。
なにせこの時、牧場智久はわずか十二歳の少年である。薬で体を小さくされたわけではなく、見た目はもちろん中身も子供なのだ。ここもこの作品の面白ポイントである。
囲碁小説としての面白さ
今作『囲碁殺人事件』はミステリ小説としてはもちろん「囲碁小説」としても楽しめるのがポイントだ。
しかも囲碁を全く知らない私でも楽しめてしまうほど分かりやすく描かれている。囲碁の世界を見たこともない私にとっては、非常に新鮮な体験ができた。「へえ〜」の連続である。
ただ正直言って、囲碁に詳しくない人が読んでもわかるわけがないトリックなども出てくる。謎が解明された時に優しく説明されても「???」である。わけがわからない。
なのでそこは「そいうものなのだ」と割り切り、智久の天才っぷりにただただ驚こう。
とはいえ、そこを除けば非常にまっとうな本格ミステリである。奇書とも言える『匣の中の失楽』でデビューした竹本健治さんの作品とは思えぬ普通さなので、幅広い方に楽しんでいただけるだろう。
※『匣の中の失楽』は、夢野久作『ドグラマグラ』、小栗虫太郎『黒死館殺人事件』、中井英夫『虚無への供物』の「三大奇書」と並び、「四大奇書」とも呼ばれる。読み手を選ぶが、ハマる人にはとことんハマる!
最後に、気になる謎をチェックしてみよう
事件前に智久が見た盤面は何なのか
「あの珍瓏だよ。首なし死体。首がとられることによって胴体も死ぬ。この暗号は偶然なんだろうか。ボクにはそう思えないよ。あれはきっと犯人から槇野さんへの殺人の予告だったんだ」
78ページより
なぜ、犯人は殺人の予告なんてものをしたのか。
なぜ、槇野九段の首を切断したのか
首を切断するのは簡単なことではない。それに荷物にもなる。単なる替玉殺人であれば、顔をつぶすなりすれば良い。なぜ時間と手間をかけて首を切断したのか。
対局中に殺害する理由とは
氷村七段との対局中、しかも槇野九段の勝ちが決まったも同然の時に殺害する必要性はあったのか。
気になる謎が目白押しである。わくわくするねえ。
続編も読んじゃおう
三ヶ月連続刊行という素晴らしい機会に、続く二作目『将棋殺人事件』と三作目『トランプ殺人事件』も読んでしまおう。特に『トランプ殺人事件』は見ものだよ!
もしまだ読んでいなければ、〈ゲーム三部作〉を読んだ後に『涙香迷宮』もぜひ読んでいただきたい。「最高峰の暗号」というものをお楽しみいただけるはずだ。
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