今邑彩(いまむらあや)さんは、デビュー作『卍の殺人』の頃から大好きな作家さんである。
基本的にミステリー小説を書かれる方なのだが、本格の中にちょっとホラーな雰囲気を漂わせる作風がとてもクセになる(表紙絵がすでに怖い)。
しかも長編、短編、どちらもがお上手であり、それぞれにしかない持ち味をしっかりと活かしているのも素晴らしい。
もっと読まれるべき作家さんだと強く思っている。
ミステリがお好きであれば、ぜひ一度お手に取ってみていただきたい。
1.『金雀枝荘の殺人』
今邑彩さんの「最高傑作」と名高い作品である。
まず〈金雀枝荘〉という館が素晴らしい設定。
この館では一年前に、グリム童話に見立てられて一族6人が殺害されるという事件が起こったのである。
しかも、館に存在するすべての窓に釘が打ち込まれており、外からは開けられないようになっていたのだ。完全な密室である。
そんな過去の惨劇を解決するために、一族の兄弟たちが〈金雀枝荘〉にやってくるところから物語は始まる。
これぞ本格!な館モノ
「どうやって密室を作ったのか?」
「なぜ童話に見立てる必要があったのか?」
しかし、そんな推理合戦を繰り広げていた彼らにも悲劇は降りかかる。悲劇は続くのだ。
〈館モノ〉であり、〈見立て殺人〉があり、〈密室殺人〉もあり、〈推理合戦〉もある。これだけの本格要素が詰まっているのだから面白くないわけがない。
しかもそれらの要素をうまく絡めながら、物語へとグッと引き込ませる展開。特に終盤の緊迫感にはゾクゾクが止まらない。
本格な館モノがお好きならぜひ読んでみていただきたい作品である。
2.『そして誰もいなくなる』
タイトルでピン!とくる方も多いだろう。
アガサ・クリスティの傑作『そして誰もいなくなった』をオマージュした作品である(この時点でもう好き)。
名門女子校で演劇部が『そして誰もいなくなった』の舞台を行っていた最中、死に役の生徒が本当に死んでしまったのだ。
さらにその後も、演劇部の生徒が舞台の筋書き通りに死んでいく。一体誰が、なんのために。
オマージュ作品の良いお手本
ただ単にオマージュしているというわけでなく、うまい具合に元作を活かしているのが素晴らしい。
孤島のようなクローズドサークルではなく、日本の「女子高」という舞台でコレを行っているのも面白いポイントである。『そして誰もいなくなった』のオマージュ作品って大体クローズドサークルだもんね。
文章が読みやすいのもあり、序盤からグッと引き込まれる展開が続く。中盤以降からはさらにテンポよく進み、ラストの捻りも上手に決まっている。アッパレ!
3.『卍の殺人』
今邑彩さんのデビュー作。すべてはここから始まったのだ。
「卍」の形をした奇妙な館での殺人、というモロに好みな館モノである。
綺麗にまとまった王道の本格ミステリといった感じで、最初から最後まで安定した面白さを誇る。しかしなぜか、国内ミステリー小説の中でもそれほど知名度が高くない。不思議である。
目新しさやド派手な展開こそないが、伏線の回収や卍の館ならではのトリックは見もの。ドロドロねっとりした人物関係も、作品の不気味さに加担していて良い味を出している。
今作に限らず、今邑さんの作品は非常に読みやすいのも嬉しいポイント。たとえ長編であってもスルスルと一気読みできてしまうのだ。それはデビュー作から変わりない。
4.『蛇神』
閉鎖的な村での忌々しい因習。
そんな舞台設定が大好きな方には最高の作品なのだ。
家族を惨殺されたことをきっかけに、日登美は故郷である〈日の本村〉へと訪れる。が、そこからさらにとんでもない事態に!
という初っ端からラストまで一気読み必須のハラハラドキドキ伝奇小説である。「隔絶された村」とはなぜこんなにも魅力的に映るのだろうか(絶対に行きたくはないけど)。
もちろんただのホラー小説ではなく、今邑さんお得意のミステリをうまく絡ませることでグイグイと物語へ引き込んでいってくれる。
しかも今作はまだ「蛇神シリーズ」の一作目に過ぎない。
これを読めば、続く第二作『翼ある蛇』、第三作『双頭の蛇』、第四作『暗黒祭』も絶対に読みたくなーるのだ。
5.『時鐘館の殺人』
粒ぞろいの名作ミステリ短編集。
ピリッとくる捻りの効いた『生ける屍の殺人』や、伏線回収と二転三転が楽しい『黒白の反転』、ゾクゾクっとするほぼホラーな『恋人よ』などレベルの高い物ばかりが収められている。
どの作品にも質の高い「仕掛け」が施されており、短編ながら満足感はすこぶる高いものとなる。
中でも表題作は、構成とラストの展開に「おおおおお!」と唸ってしまうほどの名作。長編でやっても全く問題ない仕掛けなのに、コレを短編でやっちゃうから密度がとんでもないことになっている。
この表題作だけでも読む価値大アリなのだ。今邑作品さんのおすすめ、というより一つのミステリ短編として強くおすすめしたい。
6.『よもつひらさか』
続いても短編集。これもまた名作である。
今邑彩さんらしいホラーとミステリの両方が楽しめちゃう贅沢な短編集。このバランスが絶妙なのだ。
まず『見知らぬあなた』。よくありがちなオチなのだが、それを悟られないようにするのがお上手だ。おお、そうくるか!と唸ってしまった。
自分の未来を映すという鏡のお話『ささやく鏡』や、何もかも「半分こ」にしないと気が済まない妻を描く『ハーフ・アンド・ハーフ』も名作。
さらに、タクシーの運転手と繰り広げられる会話がまさかの展開になる『家に着くまで』もピリッとしていて好き。
気味の悪い話や、ゾクッとしたオチがお好きであればぜひ読んでみていただきたい。
おわりに
今回選ばせていただいた作品は、どれも今邑彩さんの持ち味がよく現れたものとなっている。
まだ今邑さんの作品を読んだことがない方は、ぜひこの中から選んでいただきたい。
「この中のどれから読めばいい?」という質問は非常に困るのだが(どれも面白いから)、して言うなら長編『金雀枝荘の殺人』か短編集『時鐘館の殺人』のどちらかかな。
これを読めばきっと今邑さんの魅力がわかっていただけるはずである。
コメントを残す