井上夢人さんとは、『99%の誘拐』や『クラインの壺』といった名作で有名な「岡嶋 二人(おかじま ふたり)」さんのうちの一人。
岡嶋二人というのは、井上泉さん(井上夢人さんの本名)と徳山諄一さんのコンビのペンネームなのである。
『クラインの壺』を最後にコンビは解消され、現在は井上夢人というペンネームで数々の作品を書いておられるのだ。(岡嶋二人さん時代の作品も超面白いよ!)
さて、そんな井上さんの書く作品は、ミステリでありながら特殊な設定やSF要素が盛り込まれていたりと、「普通の」本格ミステリとは全く異なるものばかり。
それが井上さんの面白いところってわけだね。
今回はそんな「井上夢人さんらしさ」がよく感じられて、なおかつ「これは面白い!」という作品を選ばせていただいた。
参考にしていただければ嬉しい。
1.『オルファクトグラム』
姉を殺害した犯人に襲われた衝撃で、片桐稔は人間離れした嗅覚を持ってしまった。しかも「匂いを嗅ぐ」というより「匂いを見る」という感覚なのだ。
で、この能力を活かして姉を殺害した犯人を探そう!という物語である。
こんな変わった設定のミステリは井上さんにしか書けない。このアイデアだけでも読む価値大アリなのだ!
この「嗅覚」の表現の仕方や設定が素晴らしく、ミステリとか関係なしに一つの小説として面白い。「匂いが見える」ということをどのように表現されているかにも注目していただきたいのだ。
上下巻合わせて1000ページ近くの大作ながら、これを一気読みさせる井上さんはさすが。寝る前に読み始めてしまったため、おかげさまで寝不足である。
2.『プラスティック』
おそらく評価が分かれそうだけけど、井上さんの作品を読むならぜひ目にしておきたい。
フロッピーに記録された登場人物たちの日記が綴られていく、という面白い設定。その為かめちゃくちゃに読みやすい。
序盤での物語への引き込み方は抜群。で、読んでいると少しずつ感じていく違和感。「ん、これはまさか……」と。
そしてあのオチである。ゾッとした。
正直いうとなんとなく予想は当たってしまっていたんだけど、それでも十分すぎるほどに楽しめてしまった。
読み返してみると伏線の巧妙さにも驚かされる。
3.『ダレカガナカニイル…』
新興宗教団体の警備をする事になった主人公だが、着任後すぐに火事が起こって教祖が死んでしまった。そしたら頭の中に何者かの声が聞こえてきて……。
とにもかくにも普通の本格推理小説ではない。ミステリであり恋愛小説でありSF小説なのだ。
なので、合わない人には合わない。でも、好きな人はめっちゃ好きになるような作品。
700ページほどの長編ながら、物語そのものの面白さがハンパない。それでいて伏線の回収もきっちりしているし、クライマックスの展開にも読み応えがあった。
これが一番「井上夢人さんらしさ」がよく現れた作品だと強く思う。
4.『ラバー・ソウル』
井上夢人さんの最高傑作でしょう。
ビートルズマニアの鈴木誠が、ある事をきっかけにモデルの美縞絵里を好きになってしまう。
自分の容姿にハンデを感じながらも、想いを募らせた誠はストーカーへと変貌を遂げる……という物語。
警察の事情聴取に関係者が答えていく、という様々な人物の視点で物語が語られていくのだが、この構成がほんとにお上手。
文庫にして700ページ近くもある大作だが、スルスル読まされてしまって休憩させてくれないのである。
描かれるストーカー行為は確かに気持ちが悪いのだが、途中で放り出さずに最後まで読もう。終盤ではとんでもない真実が明らかになるのだから。ぜひあの結末を目にしていただきたい。
5.『the TEAM』
上にご紹介してきた作品はどれもズッシリとした重さのあるものばかりだったが、この『the TEAM』は遊び心溢れるエンタメ連作短編集となっている。
どんな人の悩みも言い当ててしまう大人気の霊能力者・能城あや子。と、彼女を裏で支える「チーム」を描く痛快な物語を描く。
実際のところ能城あや子には霊能力などなく、「チーム」のメンバーが彼女に霊能力があるように裏で手を回しているのだ。
とにかく彼らの巧みなチームプレーが素晴らしい。必殺仕事人である。
彼らの行っていることは確かに悪いことなのだが、なぜか悪い気はせず気持ちよく読めてしまうのだ。
伊坂幸太郎さんの『陽気なギャングが地球を回す』みたいな作品がお好きな方にオススメ。
おわりに
この中のどれから読めばいい?という質問は非常に困るが(それぞれタイプの異なる面白さがあるので)、
ミステリー小説として楽しみたいなら『ラバー・ソウル』
純粋に楽しくて面白い小説を読みたいなら『the TEAM』
井上夢人さんの世界観を満喫したいなら『オルファクトグラム』『ダレカガナカニイル…』
という感じかな。
本当はどれも読んで欲しいのだけどね。ぜひご参考までに。
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