このジョン・ディクスン・カーも海外ミステリを読む上では欠かせない作家さんである。
「密室といえばカー」と言われるほどに、〈密室殺人〉を扱ったミステリ作品が多いことで有名なのだ。
加えて〈怪奇趣味〉が強く作風に出ていることもポイントであり、密室の奇妙さと相まってそりゃもう大変なことになっている。
トリックが凄いのはもちろん、物語への引き込み方、伏線の忍ばせ方に関しても一級品であるので、ぜひその点にも注目して読んでいただきたい。
それではいってみよう!
1.『三つの棺』
密室ミステリといえばコレでしょ、というくらいの人気作。カーの最高傑作候補の一つ。
仮面をつけた謎の男がグリモー教授の元に訪れた。のちに銃声が聞こえ、部屋のドアを開けると倒れた教授しかいなかった。
窓の外には雪が積もっていたが、もちろん足跡なんてなかった。仮面の男は密室からどうやって姿を消したのか。
作中で展開される「密室講義」は、ミステリ小説がお好きにならぜひ目にしておきたいもの。
というわけで『三つの棺』といえば「密室講義」として注目されてしまいがちだが、見事なまでに完成されたトリックも必見の面白さである。
2.『皇帝のかぎ煙草入れ』
ミステリの女王アガサ・クリスティを脱帽させたことで有名な一作。
クリスティすら脱帽するんだから、一般人が読んだらどうなるの?と思いながら読んだ。気絶した。
思わず「巧い!!」と唸ってしまう心理トリックが何よりの見所。大胆であり、フェア。そりゃクリスティも驚くわ。
ギリギリすれすれのところで読者に気がつかせないテクニックにゾクゾクしてしまう!こんなの面白いに決まっているじゃないか。
いやーこれは目にしていただきたい。カーすごい!ってなる。
新訳版が出たおかげでとっても読みやすいのもありがたいね。
3.『ユダの窓』
密室に加え〈法廷モノ〉の傑作。
結婚の許しをもらうため、恋人の父親に会いに行ったアンズウェル。しかし話の途中で気を失ってしまい、目を覚ましたら恋人の父親が死んでいた。密室で。
当然アンズウェルに犯人の疑いがかかるが、ヘンリ・メリヴェール卿は彼を弁護していく。
圧巻のトリックはもちろん「圧倒的に不利な状況をどう覆していくのか」という法廷シーンにも注目。スリリングでハラハラして「あああっ!」と声をあげそうになる展開はお見事。
とにかく「読ませる」ストーリー展開でズイズイっとのめり込むように読んでしまうのだ。
そして解決編ではさらに衝撃的な展開が。うーん、やはり傑作。
4.『火刑法廷』
カーの最高傑作と名高い一作。
マークの伯父であるマイルズが死亡。最初は病死かと思われたが、毒殺の疑いが出てきた。
じゃあ死体を調べてみようぜ!ってことで厳重に警備された場所にしまわれた棺を開けてみたら、マイルズの死体がなかったのである。超びっくり。
さらにマイルズか死んだ日、マイルズに毒入りのカップを渡したと思われる謎の夫人が、壁を通り抜けるように消えてしまったという目撃情報まであった。
というわけで「死体の消失」や「人間の消失」という奇妙な謎を巡っていくという、いかにもカーらしいオカルトミステリーである。
まさに幽霊の仕業のように思える謎をどう解決に導いていくのか。見ものである。
5.『黒死荘の殺人』:改題前『プレーグコートの殺人』
記念すべきヘンリ・メリヴェール卿(H.M卿)の初登場作品である。
黒死荘で行われようとしていた降霊会で殺人が。しかも密室。
怪奇オカルト色満載&密室という「これぞカー!」といった感じであり、カーの中でも優先的に読んでおきたい一作。
オカルト、と言っても特に怖いというわけではないのでご安心を。あくまで雰囲気をたしなむものなのだ。前半はホラー小説かな?という雰囲気だけど、途中から一気に本格ミステリへと変貌を遂げてくれる。
トリックもさることながら、改めて読み返すと伏線の凄まじさに驚く。こんなにびっしり敷かれていたとは。
完璧と思われる密室がいかにして崩されていくのか。必見である。
6.『白い僧院の殺人』
雪密室の古典的名作。
つまり、雪の上に足跡を残さずにどうやって犯行に及んだか(どうやって現場から姿を消したか)?という謎をメインとしたもの。
ザ・本格ミステリーといった感じで非常にシンプルながら、ところどころにカーならではの技巧が見え隠れする非常に楽しい一作。盲点の付き方がお上手すぎるのだ。
カーらしいオカルトや怪奇現象を排除しているので、クセが少なく読みやすいのもポイント。
本格ミステリーがお好きならまず読んでおいて間違いない作品である。
7.『妖魔の森の家』
カーらしさが詰まった傑作短編集。
少女時代に完全な密室から消失したヴィッキー。その一週間後に突如戻ってきたが、その間どこにいたのかわからないという。
それから時は流れ成人した彼女だが、ある日別荘にやってきたメルヴェール卿たちの前で再び消失する。
そんな表題作『妖魔の森の家』は数あるカーの「最高短編」とも呼ばれる傑作中の傑作。これだけでも読む価値あり。
というと表題作だけに注目されがちだが、他の短編も上質なものばかり。密室をベースにあらゆるトリックを揃えた、バランスの良い短編集なのだ。
長編を手に取りづらいなら、ぜひこの短編集から読んでみてはいかがだろうか。
その他の作品もぜひ
あくまで私が「優先的に読んでほしい」と思ったものオススメしたわけであって、面白い作品は他にも多くある。
あとは、
・『貴婦人として死す』
・『曲がった蝶番』
・『緑のカプセルの謎』
辺りがオススメ。
ご紹介させていただいた作品を読んで「カー面白い!」と思ったなら、ぜひこれらの作品も読んでみていただきたい。
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