綾辻行人さんの『十角館の殺人 限定愛蔵版』が先日発売したわけだが、とにかく最高の一冊だった。
まず『十角館の殺人』がどれほどに素晴らしい作品か語り尽くしたいところではあるが、そんなことをしたら途方もない時間がかかってしまうので、今回は割愛する(ごめんね)。
さて、結論から言おう。
今回の『十角館の殺人 限定愛蔵版』をなぜ買うべきか。
それは、愛蔵版の特別付録として、ここでしか読めない33名の豪華執筆陣によるエッセイ「私の『十角館』」が別冊でついているからである!(•̀ω•́ )
このエッセイ集を読むだけでも、『十角館の殺人 限定愛蔵版』を買うべき大きな理由となるのだ。
皆の想いが詰まった、豪華すぎるエッセイ集
まず、今回エッセイを書かれている作家さんを見てみよう。
・青崎有吾
・朝霧カフカ
・我孫子武丸
・綾崎隼
・有栖川有栖
・伊坂幸太郎
・乾くるみ
・井上真偽
・太田忠司
・恩田陸
・喜国雅彦
・北村薫
・北山猛邦
・周木律
・白井智之
・高田崇史
・辻村深月
・西澤保彦
・似鳥鶏
・一肇
・法月綸太郎
・初野晴
・はやみねかおる
・東川篤哉
・古野まほろ
・麻耶雄嵩
・道尾秀介
・皆川博子
・宮内悠介
・宮部みゆき
・山口雅也
・米澤穂信
・詠坂雄二
以上。33名である。
豪華すぎるのもいい加減にしてほしい。
そんな作家陣が『十角館の殺人』をテーマに書かれたエッセイなのだから、読まずにいられる方がおかしいというものだ。
青崎有吾
僕らが生まれたときすでにそのムーブメントは始まっていて、物心つくころには一大ジャンルへと成長していました。書店にはいつでも「本格」の二文字があふれ、魅力的な作品に次々と出会うことができました。
ムーブメントの夜明け前、本格ファンがどういう気持ちだったのか。何を思い、何を語り合っていたのか。僕らは知りません。しかしそんな僕らにも、世代を超えて共感できるものが一つあります。『十角館の殺人』を読んだときの衝撃です。
16ページより
『体育館の殺人』で素晴らしいデビューを果たした、「平成のエラリー・クイーン」こと青崎有吾さん。
十角館の衝撃は世代を超え、ミステリ好きをさらにミステリの底なし沼へと突き落とす。もう後戻りはできないのだ。
有栖川有栖
『十角館の殺人』は発売日に購入してすぐに読み、一ミステリファンとして「こういうのが読みたかった」と快哉を叫んだ。と、同時に、読後、これほどにもやもやした本はない。もやもやとも違うか。何と表現したらいいやら……。
20ページより
当時、有栖川さんの『月光ゲーム』は江戸川乱歩賞の一次予選にも通らなかったという。
この時の有栖川さんは一体どんな気持ちだったのだろうか。
太田忠司
でもその本が、すべてを変えた。自分よりひとつ下の若者が長編の本格を書いてデビューした。その事実に震えた。その場で購入し、貪るように読んだ。そして打ちのめされた。『Yの悲劇』や『獄門島』を読んだときと同じような衝撃を受けた。本格は時代遅れなんかじゃないと確信した。
24ページより
白井智之
ぼくは両親に隠れてこっそり『十角館の殺人』を読んだ。家族が寝静まった深夜、懐中電灯で部屋を照らし、小さな物音に怯えながらページを捲ったのを覚えている。あのセリフを読んだ瞬間、ぼくは興奮と罪悪感と眠気でぐちゃぐちゃになった頭で確信した。自分は大人向けの恐ろしい快楽に手を出してしまった。もう後戻りはできないーー。
30ページより
そうなのだ。『十角館の殺人』を読むと、後戻りができなくなる。
わたしも初めて読んだ時は、正直どうしたらいいかわからないくらいに興奮していた。
一生ミステリを読んでいこう、と誓った。
辻村深月
もし、今、読んだことを忘れて未読の状態でもう一度、どれでも好きな本を読めるとしたらーー。
ミステリ好きなら、一度は夢想するであろうこの質問。問われたら、『十角館の殺人』を選ぶ人もきっと多いと思う。かく言う私も長らくそう答えてきた一人だ。
しかし、今はこうも思う。
小学六年生のあの日、『十角館の殺人』を読んでいなければ、私は、今、間違いなく、ここにいない。
32ページより
わたしも、記憶を消してもう一度読みたい本は?と聞かれたら『十角館』と答える一人である。
ただ、そんなことはどうでもいい。
綾辻行人さんに、そして『十角館の殺人』に一番感謝したいことは、「辻村深月」という作家さんを生み出してくれたことだ。

西澤保彦
私にとって『十角館の殺人』とは、ひとことで言って「西澤保彦なる引き篭もりのニートを職業作家へと導いた作品」という位置づけになろうかを思う。
33ページより
はやみねかおる
教師になるときに、物語を書くことを封印しました。でも、「子供向けの話なら、いいんじゃないかな」と童話を書いていました。それが、『十角館の殺人』を読み、「やっぱりミステリーが好きだ!」と児童向け推理小説を書き始め、いつの間にか専業作家になっていました。
38ページより
やはり『十角館の殺人』の素晴らしいところは、その衝撃によってこのような作家さんと傑作を生み出してくれたことにあると思う。
十角館が好きなら、買って損はない
他にも、このエッセイ集には綾辻さんの「三十年目の想い」を始めとし、出版当時の『十角館』のお宝情報も収められている。これも大きな見どころであり、この時点でわたしの頬は緩みっぱなしだった。
作家さんに1人につき1ページと非常に短いエッセイであるが、満足感は申し分ないものとなっている(欲を言えば1人につき100ページくらい読みたい)。
とにかく、『十角館の殺人』がどれほどの多くに人に影響を与えたか、その凄さを改めて感じさせる一冊であった。
この時代に生きていて、ミステリー小説を読んでいて良かった、と心から思えた。
あとがき
もう内容を知っている『十角館の殺人』に、4000円を出すのをためらう気落ちもわかる。
しかし、言わせてほしい。
もし、あなたが少しでもミステリが好きで、これからもミステリを読み続けて行きたいと思うなら。
これは、絶対に、手元に置いておくべき一冊であるーー。
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