小林泰三さんの作品を一言でまとめるなら「狂気的SFホラー」である。
しかもホラーと言っても「おばけが怖い」という感じではなく、グロと狂気が入り混じり、精神的に気持ちが悪くなる怖さなのだ。
さらにそこに小林泰三さんならではのSF要素が追加されることで、他の作家さんにはない独特な世界観を体感することができる。
今回は、そんな小林泰三さんらしさを堪能できるおすすめ作品をご紹介させていただきたい。
1.『臓物大展覧会』
タイトルからしてこの作品がイっちゃってることがわかる。
『臓物大展覧会』。ぞうもつだいてんらんかい。ZOMOTSUDAITENRANKAI。
このタイトルを見て「面白そう!」と興味を惹かれたあなたはなかなかヤバイ(私はめっちゃ惹かれる)。
ご想像通りの気持ち悪い物語が9編収められたホラー短編集である。
しかもただグロいお話というわけではなく、ゾッとするオチが待っていたり、SF要素が絡めてあったりと物語そのものに面白さがある。
どの短編もいい味を出しているが、「悪魔の不在証明」「透明女」「造られしもの」辺りが最高に好き。
2.『玩具修理者』
小林泰三さんといえばこの作品。
表題作『玩具修理者』と『酔歩する男』を収めた中短編集である。
とある男女のカップルの女性の方が、子供の頃に出会った「どんなものでも治してくれる」玩具修理者との体験を男性に語っていく、という表題作。
怪しげで幻想的な世界観にあっという間に引き込まれたと思ったら、ホラー短編のお手本のような展開とオチでノックアウトされてしまうのだ。
「なんて面白いホラー短編だろう!」と興奮したところで次の『酔歩する男』を読み、精神がやられることになる。
この中編『酔歩する男』は「時間」というものを軸にしたSF的ホラーであり、間違いなしの傑作短編である。
こんなに狂気的なタイムスリップものを生み出してしまう小林さんが恐ろしい。
3.『脳髄工場』
犯罪を防止するために開発された「人工脳髄」。これを装着すると、感情を抑制して犯罪を事前に防いでくれる。
周りの人がどんどん「人工脳髄」を装着していく中、それを頑なに拒む主人公の少年と友達。
しかしその友達も人工脳髄をつけることになってしまい……。
という表題作は、SFと狂気的な世界が見事な融合を果たしている。もちろんこの後には恐ろしい展開が待ち受けているのだが、ただ怖いだけでなく考えさせられる物語であるのも面白いところだ。
「人工脳髄」と「天然脳髄」の違いとは何なのだろうか。本当に「天然脳髄」でいることが幸せなのか。
そんな表題作を含めた11編からなるホラー短編集。
どれも安定した面白さを誇るため、狂気的な世界観が好きなら読んでおいてまず間違いない。
4.『肉食屋敷』
私が思う「小林ワールド」が存分に表現された4編からなる短編集。
SF&ゾンビ&ホラー&ミステリなどなど、様々なジャンルの物語が味わえるため読み応えが抜群。しかし、どれも共通して狂っている。
特に『ジャンク』のクレイジーさなんて最高すぎる。西部劇風ゾンビなんてどうやって思いつくのだろうか。
『妻への三通の告白』は最後に明らかになる真相がエグい。うわあ……ってなる。でも好き。
でも物語としては『獣の記憶』が素晴らしい。予測できない展開とオチがたまらん。ほんとに良作しかない。一番なんて選べない。
5.『人獣細工』
個人的には『玩具修理者』に次ぐ傑作短編集だと強く思う。
『人獣細工』『吸血狩り』『本』の3編が収められており、ぞれぞれテイストの違う魅力があふれている。
短編でありながら、とてもじゃないが「気軽に読める」とは言えない。後味、読み応え共に抜群である。
ブタの臓器を移植された少女を描いた表題作『人獣細工』は小林さんらしさ満点。
体のほとんどに豚の臓器を移植された場合、それは「人」と呼べるのか。後味の最悪さはピカイチだ。
また、読む者を狂気への世界へと引き込む『本』の狂い具合もツボ。何度読んでも傑作なのだ。
6.『アリス殺し』
「不思議の国のアリス」の世界でキャラクターが死ぬと、現実の世界でもそのキャラに該当する人間が死んでしまう、というファンタジーミステリ。
この奇想天外な設定でしっかり本格ミステリしていることがすごい。というより、この設定だからこそのトリックと驚きが楽しめる。心して騙されよう。
後から読み返してみるとまさかのところに伏線が敷かれていて、改めてこの作品の構成と巧妙さに唸ってしまうのだった。
「不思議な国のアリス」の世界観もよく表現されているが、殺人シーンは残酷極まりない。グロいのが苦手な方は気をつけよう。
このメルヘンさと残虐さの奇妙なマッチングが余計に恐怖をそそるのだ。
『アリス殺し』で気持ち良く騙された後は、姉妹編である『クララ殺し (創元クライム・クラブ)』も続けてどうぞ。
7.『記憶破断者』
「記憶が数十分しかもたない男」と、「触れるだけで記憶を上書きできる能力者」との戦いを描く。
記憶を失ってしまうので能力者との戦い自体を忘れてしまうが、持参しているノートに現状を記録をし、記憶を忘れたらノートを見て現在の状況を推理していくのだ。
この設定自体がすでに面白いのだが、何よりその設定を活かしきった物語展開が本当に見事である。
この先にどのような展開が待ち受けるのか全く予想できないため、最初っから最後までハラハラしまくり。
終始緊迫感に包まれているため心臓には良くないが、エンターテイメント性も抜群なため時間を忘れて一気読みしてしまうのだ。
そしてあのオチである。
ぜひこの戦いの結末を目にしていただきたい。
おわりに
今回選んだ7作品中5作品がホラー短編集という結果になった。
やはり小林さんのホラー短編は面白いものばかりだ!「ホラー短編の名手」と呼ばれる理由がよく分かる。
しかし短編だけでなく、『アリス殺し』や『記憶破断者』といった長編にも注目していただきたい。
・狂気的なホラー短編が好き
・「幻想的」や「グロい」などのキーワードが好き
という方はには特におすすめなのだ。絶対ハマっちゃうから。
ただ、この狂気に取り付かれてしまうと後戻りできないので気をつけよう。
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