島田荘司『御手洗潔シリーズ』の読む順番とオススメについての話

さて、島田荘司さんの『御手洗潔シリーズ』であるが、これは必ず順番に読まなければならない。

順番に読むのとそうでないのでは、面白さが段違いなのだ。

途中から読んでしまうと、「ああ!最初から順番に読んでいればよかった!」と後悔することになる。

 

そんな最高に面白い『御手洗潔シリーズ』であるが、特にオススメするのは1作目『占星術殺人事件』から『眩暈』までなので、その順番をご紹介させていただきたい。

これから読まれる方は、ぜひこの順番を参考に読んでほしい。

1.『占星術殺人事件』

 

島田荘司氏のデビュー作であり、御手洗潔シリーズの記念すべき一作目。

というわけで、この作品を一番最初に読むことは、「絶対」である。

御手洗潔シリーズの一作目だから、という理由ではなく、日本のミステリー小説における屈指の名作であるので、必ず読んでおこう。

衝撃の「アゾート殺人」

六人の若い女性が、身体の一部を切り取られた遺体となって発見される。四十数年後、いまだに未解決であるこの猟奇殺人に御手洗潔が挑む。

おぞましくも難解な謎でありながら、御手洗潔の不思議なキャラクターに魅せられ一気読み。

普段小説を読まない方は少々読みにくいと思われるかもしれないが(特に序盤)、途中で諦めてしまうのは非常にもったいない。最初の数十ページを過ぎれば、グイグイ面白くなってくる。

そして、一度読んでしまうと一生忘れられない、あの強烈トリックをぜひ味わおう。

補足:『金田一少年の事件簿』で同じトリックが使われていたため、トリックの真相が明らかになっても驚けなかった人が多いことで有名。金田一少年を読まなければよかった、という人が続出した……。

2.『斜め屋敷の犯罪』

 

シリーズ2作目。

『占星術殺人事件』のトリックも凄いが、こちらのトリックも半端ではない。

「流氷館」という〈最初から傾けて建てられた〉奇妙な館を舞台にした、館モノの傑作である。誰がなんと言おうと、傑作である。

思わず「そんなバカな!」と叫んでしまうようなミステリ、通称「バカミス」なんて言われているが、私的には拍手喝采の素晴らしいトリックであった。

とにかく、このメインとなるトリックは、シリーズの中でも特にぶっ飛んでいるので、目にしておかないと損である。

また、「本格密室殺人モノ」としても推奨。

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3.『御手洗潔の挨拶』

 

さて、長編を2作読んだ後、ようやく御手洗潔からの挨拶がある。

『数字錠』『失踪する死者』『紫電改研究保存会』『ギリシャの犬』という屈指の名作が揃う、非常に優れた短編集である。

御手洗潔という人物の魅力に溢れた作品ばかりであり、なおかつ質の高いトリックが楽しめるという贅沢なミステリ。

これを読めば、御手洗潔をもっと好きになる。そういう、短編集である。

4.『異邦の騎士』

 

面白いミステリー小説だとか、そういう枠組みではなく、一つの読み物としての最高峰である。本作を「御手洗潔シリーズ最高傑作」だと言う人も多い。

正直に言ってしまえば、推理小説としてのワクワク感や、トリックの衝撃などは、前二作ほどではない。

しかしこの『異邦の騎士』は、そんな些細な事は関係なしに、心に染み込むような面白さがある。

記憶喪失になった男の行方は……

物語は、公園のベンチで目を覚ました男が、自分が記憶を失っている事に気がつき困惑する場面から始まる。これ以上のあらすじは知らないほうがいい。

『占星術殺人事件』や『斜め屋敷の犯罪』のような「いかにも」な本格ミステリではないが、御手洗潔シリーズの中でも屈指の面白さを誇るので、ぜひ読もう。

私はこの『異邦の騎士』で、完全に御手洗潔シリーズの虜となってしまったのだ。

これは、一人の騎士の物語である。

 

というわけで、これから御手洗潔シリーズを読まれるのであれば、

特に、

1.『占星術殺人事件
2.『斜め屋敷の犯罪
3.『御手洗潔の挨拶
4.『異邦の騎士

までの順番は絶対に守ろう。

5.『毒を売る女』収録『糸ノコとジグザグ』

 

シリーズ以外の作品が多く収められた短編集であるが、この中の『糸ノコとジグザグ』が御手洗潔モノであり、かつ名作である。

ひとことで言えば、「スピード感のある暗号モノ」。

読んでおかないと支障が出る、というわけではないのだが、非常に優れた短編であり、御手洗潔シリーズを読むのであれば絶対に目にしてほしい作品なのである。

順番としては、やはり同時期に発売された『異邦の騎士』の次あたりに読むのが好ましい。

そのほか、御手洗シリーズではないが面白い短編ばかりが揃っており、「いろんな島田荘司が楽しめる短編集」として純粋にオススメである。

6.『御手洗潔のダンス』

 

これもまた、読み応えがあり、個性溢れる短編集である。

当たり前のようにクオリティが高く、読んでいて楽しい。

ビルとビルをつなぐ電線の上で発見された死体と、東武伊勢崎線に結ばれたロープの先に男性の右腕が巻き付いていた事件の謎を解き明かす『山高帽のイカロス』は、シリーズ屈指の名短編。

そのほか『ある騎士の物語』、『舞踏病』、『近況報告』の計四編が収められている。

御手洗と石岡君のやりとりも面白く、とにかく「御手洗シリーズらしい」ものばかり。御手洗ファンのための短編集、と言っても良い。

とにかく、すでにファンである方もそうでない方も、絶対に読まなければならない一冊なのだ。

7.『暗闇坂の人喰いの木』

 

おそらく、真面目にミステリとして読むと「ふざけるな!」「そんなアホな!」という声があがると思う。それほどに、メイントリックの真相には、度肝を抜かれる。

しかし、すでにファンの者は、こういう展開こそが大好物。これぞ島田荘司さんなのだ。もはや芸術の域。

御手洗シリーズの中でも随一の、怪奇的な雰囲気も素晴らしい。

人を飲み込む木の謎

さて、物語は「次々に人間を呑み込む」、という巨木にまつわる謎を解決していく。なんともホラーな展開であり、おどろおどろしい雰囲気が漂う。

ああ奇妙だ、不気味だ、一体どんな結末になるのか。そう油断させておいての、あのトリックである。

バカミス?リアリティがない?

そんなもの、これだけ面白ければ関係ない。

推理小説というよりは、一つの「面白い小説」として強くオススメする。

文庫にして約680ページの長編であるが、文章は読みやすい。

8.『水晶のピラミッド』

 

相変わらずの御手洗ワールド。

エジプトの大ピラミッドを原寸大で再現した場所で起こる事件を描いた、時空を超えるスペクタクルミステリーである。

とにかく壮大な話であり、推理小説というより冒険譚として大好きな作品。

ミステリ小説として読むと無駄な部分があるように思えるが、これは「ミステリ小説」ではなく「島田小説」なので、そんな事を気にしてはいけない。

文庫にして約740ページ。我らがアイドル御手洗潔も中盤まで登場しない。しかし、勢いの止まらない面白さ。

そしてやっと登場したかと思ったら、そこからジェットコースターのようなスピード感で一気読みなのである。

ただし間違っても、御手洗潔シリーズ最初の一冊に選んではいけない。

9.『眩暈』

 

さて、ここまで順番に読んでいると、御手洗潔シリーズがただの推理小説ではないことがお判りいただけるだろう。

本作『眩暈』も、御手洗潔ファンなら大好物の物語であり、そうでなければ「なんだこの作品は!」と怒鳴ってしまうような作品である。

『占星術殺人事件』を愛読する青年が書きのこした「手記」がさし示す謎を解いていく。

予想をはるかに超えたメイントリックは、驚愕を通り越してドン引きである。どうすれば、こんなトリックを思いついてしまうのか。

かなり無茶苦茶な、相変わらずの強引な力技だが、これこそが島田作品の醍醐味。

本当に、眩暈がしてしまいそうだ。

以降の順番

というわけで、御手洗潔シリーズで特にオススメするのは、ご紹介した通り『眩暈』まで。

必ず順番に読もう。

そしてもし『眩暈』まで楽しめたなら、オメデトウ!

あなたは御手洗潔シリーズに選ばれたのである。

これからどんどんシリーズ作品を読み漁っていってほしい。

以降の順番は以下の通り。

10.『アトポス

11.『龍臥亭事件』石岡君が主人公で、御手洗潔はほぼ登場しない(電話のみ)。

12.『御手洗潔のメロディ

13.『Pの密室

14.『最後のディナー

15.『ハリウッド・サーティフィケイト』松崎レオナが主人公で、御手洗潔はほぼ登場しない(電話のみ)

16.『ロシア幽霊軍艦事件

17.『セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴

18.『魔神の遊戯

19.『ネジ式ザゼツキー

20.『上高地の切り裂きジャック

21.『龍臥亭幻想』御手洗ほぼ登場せず。

22.『摩天楼の怪人

23.『最後の一球

24.『溺れる人魚

25.『UFO大通り

26.『犬坊里美の冒険』犬坊里美が主人公。御手洗登場せず。

27.『リベルタスの寓話

28.『進々堂世界一周 追憶のカシュガル

29.『星籠の海

30.『屋上の道化たち

31.『御手洗潔の追憶

 

ほか、1988年に出版された『切り裂きジャック・百年の孤独』という作品が、隠れ御手洗シリーズ。『眩暈』まで読んだら、ぜひ手に取ってみよう。

ちなみに

名探偵傑作短篇集 御手洗潔篇』という御手洗潔シリーズの名作短編を選りすぐった短編集があり、これをシリーズ入門として最初の一冊にオススメしている人もいるのだが、

個人的にこの傑作短編集は、

「すでにシリーズのファンである人が、改めて御手洗潔の良さを再確認する短編集」

だと思うので、私は最初の一冊にはオススメしない。

確かに優れた短編ばかりが収められているのだが、これはある程度の作品を読んでいるからこそ、より楽しめるものだと思う。

この短編集を読むのであれば、

1.『御手洗潔の挨拶
2.『御手洗潔のダンス
3.『御手洗潔のメロディ

をそれぞれ読んだほうが良い。

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