①夏である。
②ホラー小説が読みたくなる。
③つまり、三津田信三さんである。
これは、
①夏である。
②アイスが食べたくなる。
③つまり、あずきバーである。
とほぼ同じ現象である。逃れられないのだ。
というわけで、日本を代表するホラー作家の一人、三津田信三(みつだしんぞう)さんのおすすめホラー小説をズバっとご紹介させていただきたい。
三津田さんの作品を読まずしてホラー小説は語れない、というほどに面白い&怖いのでこの機会にぜひ読んでみてほしい。
これらの作品を読んで初めて夏が来たと言えるのだ(夏じゃない季節に読んでももちろん面白いよ)。
ただし、作品を読んでいる最中にどんな怪異があなたを襲おうと、私は一切責任を取らないのでヨロシク頼む。
目次
1.『どこの家にも怖いものはいる』
著者の元に集められた、時代も場所も登場人間も全く関係がない怖い話たち。単体でも十分に怖いのだが、それらの話に奇妙な繋がりが見えた時、恐怖は倍増する。
「まったく別の二つの話なのに、どこか妙に似ている気がして仕方がない……という薄気味の悪い感覚に囚われた経験が、先生にはありませんか」
7ページより引用
「建物」にまつわる怪異を軸にしたホラー作品でありながら、程よい謎解き要素が加わることでグイグイと読まされてしまうストーリーになっている。
そしてなんといっても、三津田作品の特徴である本当にあった出来事のように見せる作風が魅力的。
書いてある内容があまりにリアルすぎて、読んでいて「え、これ小説だよね?ノンフィクションじゃないよね?」と思わせてくれるのだ(おそらく本当にあった出来事である)。
まさに三津田信三さんらしい、王道の幽霊屋敷小説である。
三津田作品の最初の一冊にもおすすめしたい。
2.『ついてくるもの』
これもまた、三津田さんらしい王道のホラーである。
7編からなる短編集であるのだが、まあどれもクオリティの高い物語ばかり。短編でこれだけの読み応えを出すのが三津田さんのすごさである。
廃屋見つけた雛飾りは、どれも目や手足などが潰されていた。
しかし唯一綺麗なままのお雛様を発見。少女はそれを持ち帰るが……という表題作ももちろん、ルームシェアをしているうちの一人が奇怪な行動を始める「ルームシェアの怪」や、絶対に入ってはいけない禁忌の場所〈無女森〉を描く「八幡籔知らず」なども最高だ。
純粋に面白いホラー小説が読みたい、というなら必見なのである。
3.『のぞきめ』
山奥にある別荘地でアルバイトを始めた大学生たちは、管理人から「名知らずの滝」に行く巡礼者の相手はしないように、地図にない道は決して入らないように、と注意をされる。
しかし好奇心に負けた彼らは、つい禁じられた廃村へと足を踏み入れてしまう……という『覗き屋敷の怪』。
そして「その廃村で過去に何があったのか」を暴いていく『終い屋敷の凶』の計二章からなる作品である。
相変わらず「これは本当にあった出来事だ」と思わせる構成がお上手すぎる。ほぼノンフィクションと言って良いだろう。
さらに序章で、
よって読者であるあなたに、ここで断っておきたい。もし万に一つ本書を読んでいる最中にーー、
普段は感じないような視線を、頻繁に覚えるようになった。
誰かに見られている気がして辺りを見回すが、周りには誰もいない。
ありえない場所から何かに覗かれている、そんな気がして仕方がない。こういう感覚に囚われた場合は、一旦そこで本書を閉じることをお勧めしたい。ほとんどが単なる気のせいだろうが、念のためである。
39ページ 序章より引用
なんて述べられている。
一体どこまで怖がらせれば気がすむのだろうか。やめていただきたい。
4.『怪談のテープ起こし』
ジワジワねっとりゾクゾクする、一番イヤなタイプの怖さが味わえる短編集。この息苦しさがたまらない。
「その人が死ぬ寸前に残したメッセージ」が録音されたテープを原稿に起こす『死人のテープ起こし』は、設定もストーリーもドキュメンタリーホラー好きとしては最高に楽しめた。長編でガッツリ読みたい。
「人が死ぬ寸前に残したメッセージ」だけでも十分に恐ろしいし聞きたくもないのだが、それを文書に起こすとまた別の怖さが味わえてしまうのである。
大きな洋館で一晩留守番をすることになった『留守番の夜』もめちゃ怖。
もちろん今作も実話か創作かわからないような構成になっている。これぞ三津田信三さんなのだ。
5.『忌館 ホラー作家の棲む家』
「作家3部作」の1作目。三津田さんのデビュー作であり、全ての始まりである。
ホラーミステリとのことだが、ミステリ小説としてではなく純粋に「ホラー小説」として読むのが良いだろう。
ただ一つ、注意というほどでもないのだが、あくまで「3部作」であるので1作目だけを読んで判断してしまうと非常にもったいない。
巻を追うたびに面白さと深みが増していくのである。
1作目を読んでしまえば勝手に次巻へと手が伸びてしまうので心配ないと思うが、念のための忠告しておく。
読む順番は以下の通りである。
①『忌館 ホラー作家の棲む家』
②『作者不詳 ミステリ作家の読む本(上)』
③『作者不詳 ミステリ作家の読む本(下)』
④『蛇棺葬』(3部作の前編)
⑤『百蛇堂 怪談作家の語る話』(3部作の後編)
ぜひ、一気読みを。
6.『わざと忌み家を建てて棲む』
魅力的な「幽霊屋敷」は数あれど、この作品の舞台となる幽霊屋敷「烏合邸」は異常である。
なんと、過去に事件が起きた「忌々しい家や部屋」を寄せ集め、それらをくっつけて一つの家にしてしまったのだ。それが「烏合邸」である。
スーパー狂っている。怪異現象が起こるに決まっているではないか。
しかもその「烏合邸」に人を住ませて、そこで起きた怪異現象を記録させたというのだ。
まさにタイトル通りの『わざと忌み家を建てて棲む』というわけである。
ホラー好きとしてはこの設定だけでもヨダレが出てしまうが、中身も設定負けしていない面白さを誇っていた。
①〈黒い部屋 ある母と子の日記〉
②〈白い屋敷 作家志望者の手記〉
③〈赤い医院 某女子大生の録音〉
④〈青い邸宅 超心理学者の記録〉
という、烏合邸で起きた怪奇現象を記録した4つの話を軸に物語は進められていくのだが……、安定の三津田ワールドである。安心する。
7.『厭魅の如き憑くもの』
刀城言耶(とうじょうげんや)シリーズの1作目。
ホラー小説であり、ミステリー小説としての傑作である。
ホラーとミステリの融合というと「怪異の正体は実は人間のしわざでした」みたいなオチになる作品もあるが、刀城言耶シリーズでは怪異は怪異のまま残るのである。
つまりホラー小説でもあり、ミステリー小説でもあるのだ。このバランスが絶妙であり、シリーズの大きな特徴である。
純度100%のホラー小説を望む方には合わないかもしれないが、少しでもミステリー小説に興味があるならぜひ一度読んでみてほしい。
特に三作目の『首無の如き祟るもの』は数ある国内ミステリー小説の中でもトップクラスの傑作である。
できれば1作目から順番に読んでいただきたいが、どうしてもと言うなら順番を飛ばしてでも良いので3作目だけでも読んでみてほしい。
読む順番は以下の記事を参考に。

夜中に読むべし。
やはり三津田さんの作品は、皆が寝静まった真夜中、読書灯の明かりだけを頼りに布団の中で一気読みすることをおすすめしたい。
真昼間に読んでも結局怖いことには変わりないので、どうせなら雰囲気を最大限に活かそうというわけである。
ただ、トイレにだけは先に行っておこう。マジで。
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