叙述トリックの名手。折原一さんのおすすめ小説8選を語りたい

「叙述トリックの名手」との異名を持つ折原一さん。

基本的に「叙述トリックがある」というと、ある意味それだけでネタバレになってしまうことが多い。

しかし折原一さんの場合、最初から叙述トリックがあるとわかっていても騙されてしまうのだ。これが最高に気持ちが良い。

今回はそんな折原一さん作品を三日三晩悩んで厳選した。その結果8作品となった。

どれも自信を持っておすすめできる作品であるので、参考にしていただければとっても嬉しいのだ。

1.『異人たちの館』

 

折原ーさんご自身が「代表作」「マイベスト」と述べている名作。

フリーライター・島崎潤一の元にゴーストライターの仕事が舞い込む。

その依頼は、失踪中である我が子・淳の一生を本にしてほしいという内容だった。なんと奇妙な依頼だろう。

200万という報酬に魅せられ依頼を引き受ける島崎だが、淳の過去を調べているうちに奇妙な出来事に巻き込まれていく。

圧倒的な作り込み

叙述トリックが使われている作品というのは、最後にデカイ一発を喰らわされるものが多い。

しかし『異人たちの館』はデカイ一発だけに頼らず、細かな伏線と仕掛けが絡みに絡み合って二転三転しまくる、という巧みな技を連発するような構成の作品なのだ。

何が言いたいのかというと、普通の叙述ミステリじゃあないよ!ってことである。

文庫にして600ページ超えの大作ながら、読み終わるのは一瞬なのだ。

2.『倒錯のロンド』

 

これもまた、折原さんを代表する作品である。私はこれで折原さんにどハマりした。

新人賞受賞を目指し、全力で書き上げた「幻の女」という小説が盗まれてしまった。しかもその「幻の女」が別の著者名で新人賞獲得してしまう。

本当であれば俺が受賞していたのに!と激怒する原作者は、どうにか盗作者に詰め寄ろうとするが……。

これまでに何度か読み返しているが、その度に「ここにも伏線があったのか!」とびっくりさせられる。

物語の結末が分かっていようと面白いのだ。それは綿密に作り上げられた構成と終盤の展開が巧すぎるからだろう。

しかし、ここまでどんでん返しされると思考が追いつくのが困難である。思わず何度も読み返してしまうのだ。で、改めて驚愕する。

適当に読んでいるとわけがわからなくなるので、じっくりと読むことをおすすめしたい。

倒錯(とうさく)と盗作(とうさく)を掛けたタイトルもイイネ。

3.『倒錯の死角』

 

向かいのアパートに住む女を〈覗く男〉と、そんな男に〈覗かれる女〉の物語。

覗く男の視点と、覗かれる女の日記+αの三つの視点で展開されていく。

最初はアパートの201号室を覗くことを純粋(?)に楽しんでいたのだが、ある事件をきっかけに物語が大きく動き出していくわけだが。

この作品も「折原さんらしさ」が堪能できる作品である。

つまり二転三転しすぎて「は?」となるのだ。で、しばらく遅れて「なるほど!」となる。「だからあの時ああだったのね!」と伏線がビシッと回収されていくのだ。

サスペンスとしても一級品であり、とにかく先が気になって仕方がない展開が続く。文章が読みやすいのも嬉しい。

そして最後のやられた感は実に気持ちがいい。わかっていても騙されるんだからどうしようもないのだ。諦めよう。

覗き、ダメ、ゼッタイ。

4.『グランドマンション』

 

〈グランドマンション一番館〉に住む人々が繰り広げる事件を描いた連作短編集。

一遍一遍にキレの良い伏線とトリックが盛り込んであり、「安定の折原ワールド」という感じでシンプルに楽しめる。

ただ、頭をグリングリンとかき回されるので、しっかり読んでいないと混乱してきてしまう(これが折原作品の醍醐味)。混乱を避けるためにも、できれば間を空けず一気に読むことをオススメしたい。

読んでいるとモヤモヤとした違和感に包まれていくはずだが、ご安心を。その違和感はのちにスッキリと回収されるのだから。

5.『七つの棺【新装版】』

 

折原一さんのデビュー作『五つの棺』が文庫化にあたって二編追加し『七つの棺』としたものである。

収められている七編がすべて密室モノ。さらにそのすべてが有名作品をパロディしたもの、という遊び心溢れた短編集なのだ。

ウィリアム・ブリテンの名作『ディクスン・カーを読んだ男』をパロディした『ディクスン・カーを読んだ男たち』は特に見もの。『天外消失事件』や『脇本陣殺人事件』も好き。

正直言うとトリックに真新しさはあまり感じられないが、密室のツボをしっかり押さえており、改めて密室の面白さと向き合えるものとなっている。

純粋に、ユーモアがたっぷり詰まった「楽しい短編集」としてオススメ。この「バカバカしさ」がこの作品の良いところなのだ。

最初に述べたようにすべてパロディものであるが、元の作品を読んでいなくても十分に楽しめるのでご安心を。

6.『冤罪者』

 

折原一さんの作品の中でタイトルの最後に「者」がつく〈~者シリーズ〉というのがあるのだが、そのシリーズの中で一番面白いと思うのがこの『冤罪者』。

連続婦女暴行事件で婚約者を失ったノンフィクション作家・五十嵐友也。そんな彼の元に、その犯人と思わしき拘置中の男から「俺はやってない!助けてくれ!」みたいな手紙が届く。

非常に複雑な状況だが、本当にこの男が犯人でなければ一体誰が真犯人なのか?……という物語。

まず物語への引き込み方が上手く、サスペンスものとしての面白さがすごい。文庫にして約600ページほどの長編なのだが、本当に一気読みしてしまうのだ。

で、その勢いに押されてグイグイ読んでいくと、二転三転からの最後に「ドカーン!」と一撃を喰らわされる。まさに、これぞ折原ミステリ!という感じ。

読んでいる際中から「伏線や仕掛けがいたるところに忍ばされているんだろうなー。」とわかってはいるのだが、どうしようもできない。仕方がないね。

7.『天井裏の散歩者』

 

偉大な推理作家が住む「幸福荘」という二階建てアパート。作家を目指す者たちの憧れであるそのアパートに運良く入居することができた男。

男が自分の部屋に入るとワープロがすでに置いてあって、〈文書1〉から〈文書6〉までの物語がすでに入っていた。そこには「幸福荘」を舞台にした恐るべき物語が描かれており……という展開。

まず単純に読み物として面白い。そして読みやすい。さらに構成が見事である。

この記事でご紹介させていただいているどの作品よりもユーモアたっぷりで楽しく読める。折原一さんってこんなライトミステリーも書くのか、と思ったものである。

しかし、そんな感覚で気ままに読んでいくと突如、違和感が襲い始める。何かがおかしい。

そして終わりに近づくにつれ、なにがなんだかわからなくなって頭がごちゃごちゃしてくる。おや?と思った時にはもう遅い。すでに折原一さんの手のひらの上で転がされているのだ。

この目が回ってしまうような展開を楽しんでいただきたい。

8.『沈黙の教室』

 

基本的に折原さんの作品は、最後の最後に二転三転したり、ガツン!としたどんでん返しが待っているものが多い。

しかし言ってしまうと、この『沈黙の教室』はそのような「衝撃的なラスト」を期待する作品ではない。

いつもの折原作品のように「最後の一撃」を期待していると肩透かしを喰らうため、評価が下がりがちな非常に勿体無い作品なのだ。

だが今作はお得意の叙述トリックよりサスペンスに主眼を置いている作品であるので、それは当たり前なのである。

つまり!

意外性のある犯人や衝撃トリックを楽しむいつもの〈推理小説〉ではなく、謎が謎を呼び、最後までハラハラさせて一気読みさせられてしまう〈サスペンス小説〉として一級品の面白さを誇るのだ!

文庫にして700ページ近い長編だけど、ほんとに一気読みしちゃうからね。

あくまでストーリーとサスペンス重視。練りに練られた物語はとっても面白く、読んでいてドキドキしっ放しの非常に楽しい作品なのだ。

おわりに

今回ご紹介した中で『沈黙の教室』以外は、すべて叙述トリックに主眼を置いた作品となっている。

騙されるのが好き!やられた感を味わいたい!という方に超おすすめなのだ。

まだ読んだことがない方は、ぜひこの中の作品を読んで「折原ワールド」を堪能していただきたい。

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