乙一さんは、最初の一冊に何を読むかで大きく印象が変わってしまう作家さんである。
どれも面白いのだが、読後感や内容の「差」が激しいのだ。
なのでこの記事を参考に、ぜひ最高傑作から優先的に読んでいただきたい。名作ばかりを集めた。
これであなたも、乙一ワールドの虜になってしまうことだろう。
目次
最高傑作『暗いところで待ち合わせ』
乙一さんの作品は、別名義のものも含めて全て読んでいるが、この作品以上の物語には出会えていない。
駅のホームで起きた殺人事件の犯人として追われるアキヒロ。
彼は警察の目から逃れるため、一人暮らしをしている盲目の女性・ミチルの家へと逃げ込んだ。
気がつかれないよう居間の隅にうずくまりながら過ごすアキヒロだが、ミチルはだんだん何者かの気配に気が付いていく。
殺人犯として追われる男が盲目の女性の家に潜む、なんて設定は不気味であるし、表紙だって完全にホラーだ。
しかし、これは究極の恋愛小説とでも言うべき、心が温まって仕方がない物語なのだ。
登場人物の気持ちが痛いほどわかる。そしてスリルがある。
あらゆる感情が入り混じり、ページをめくる手を一切止めさせず最後まで読ませる疾走感。
表紙、タイトル、あらすじからは全く想像もつかないような深い一冊なのだ。この作品に出会えてよかったと心から思う。
まだ乙一さんの作品を読んだことがないならば、まずこの作品からお手にとってみよう。
2.『失はれる物語』
最高傑作候補。最後まで悩んだ。
乙一さんとは天才なのだな、と思わされる短編集である。
読む前から「いい話なんだろうな」とわかっていても、その斜め上をいくいい話をぶち込んでくるから悶絶してしまう。
乙一さんらしいミステリアスな空気が漂い、切なくも悲しい物語が多いが、なぜが読後感は暖かい。不思議である。
どれも逸材であり一番は決められないが、『Calling You』『失はれる物語』『傷』『幸せは子猫のかたち』はどう考えても傑作短篇。
小説好きでありながら、こんな物語を読まないなんて全くの損である。
覚悟はしていたものの、私は見事に涙腺崩壊してしまった。
これから読まれるのであれば、手元にティッシュを置いておこう。
3. 『ZOO』
刺激の強い物語がお好きなあなたに。
『暗いところで待ち合わせ』のような心温まるお話を期待してはいけない。
母親に虐待され、辛い毎日を送る姉妹を描く「カザリとヨーコ」。
監禁された姉弟の脱出劇を描いた、スリル満点、一気読み確実、読後感最悪の「SEVEN ROOMS」。
ああ気分が最悪だ、となったところで、突如「陽だまりの彼女」のような深いお話を放り込んでくる巧妙さ。
読後感の異なる様々なジャンルの物語を詰め込んだ、文句なしの乙一短編集である。
『ZOO〈2〉』もあるので合わせてどうぞ。
4. 『平面いぬ。』
ホラーなのかミステリなのかファンタジーなのかジャンル分けできない短編集。
「石の目」「はじめ」「BLUE」「平面いぬ。」の4編どれも良いが、私には「BLUE」が一番刺さった。もう何回も読んでいる。
意思を持って動くようになった人形のお話なのだが、ファンタジー色が強いにも関わらずリアリティがあり、読むたびになんとも言えぬ余韻を残す。
一つ一つのお話が素敵で、かつ乙一ワールド全開であるので、手に取らない理由が全くない。
5. 『夏と花火と私の死体』
乙一さんが16歳の時に書き上げたデビュー作。
「16歳でこんな作品が書けるなんてすごい!」という理由でオススメしているのではなくて、一つの作品として素晴らしいのだ。
年齢なんて関係なしに、面白い作品は面白いということである。
特徴的なのは、死体である「わたし」の視点で語られていくということ。その「わたし」の死体を、ある兄妹が必死に隠し通そうとするスリリングな物語である。
ヒヤリヒヤリとするホラーサスペンスなのに、どこか気の抜けた淡々とした世界観で、そのズレが余計に不気味なのだ。
休憩させる暇を与えさせてくれないストーリー展開で、伏線回収とオチも見事に決まっている。
感想をひとことで言うなら、「狂気」。
6. 『暗黒童話』
事故で左眼と記憶を失った女子高生。
臓器移植で眼球の提供を受けるが、以前の持ち主の記憶が左眼から映像として流れ込むようになってしまった。
その「目」の記憶を頼りに、彼女は提供者が生前に住んでいた町をめざして旅に出る。
ホラーでありファンタジーでありミステリのような、まさに乙一さんの『暗黒童話』そのままである。
グロテスクな要素が苦手な方にはオススメしにくいが、二転三転する展開にハラハラドキドキしたいなら必読だ。特にラスト数十ページは全く目が離せない展開が続く。
この作品をきっかけに乙一さんにハマる人も多い。
7. 『GOTH 夜の章』『GOTH 僕の章』
『GOTH 夜の章』には「暗黒系」「犬」「記憶」、
『GOTH 僕の章』には「リストカット事件」「土」「声」の、それぞれ3編が収録されている。
短編集であるが、必ず『GOTH 夜の章』を先に読まなければならない。これは絶対である。
それぞれがどんなお話であるかは、全く無知の状態で読むのが好ましい。
事前に調べてネタバレを食らってしまうと、大いに面白さが失われてしまうからだ。
8. 『天帝妖狐』
世にも奇妙なお話が二編。
表題作『天帝妖狐』は、顔中に包帯を巻いて素顔を見せない謎の青年・夜木と、行き倒れになっていた彼を助けた少女・杏子との物語。
悲しく切なくもあり、でも心があたたまる不思議なお話だ。これはずるい。涙腺を刺激される。
一方『A MASKED BALL』はトイレの落書きをめぐるホラーミステリ。
高校生たちが男子トイレの壁に落書きをしてメッセージのやり取りを始める、という話である。
これが実に面白い。ハラハラドキドキ、サスペンスフル。一見よくありがちなホラーのようで、乙一さんのセンスが巧みに配合された傑作短篇だ。
どちらも乙一ワールド全開でありながら、全くタイプの異なる二編が味わえる。贅沢だ。
9. 『メアリー・スーを殺して』
乙一、中田永一、山白朝子、越前魔太郎、という4人の著者によるアンソロジーである。
が、全て乙一さんの別名義であるので、つまりは結局、乙一さん一人の作品集なのだ。
読んでいただければすぐにわかるが、名義と作風の使い分け方が天才的で、乙一さんのすごさが身に染みてわかるようになっている。
どれも作風は違うものの、書いているのは当然全て乙一さんなわけだから、期待を裏切らない物語ばかりだ。
これをキッカケに、中田永一、山白朝子たちの他作品も読み漁ってみてほしい。
あとがき
つまるところ、まだ乙一作品を読んだことがないのであれば、
『失はれる物語』
の二作品をまず読もう。
話はそれからである。
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