新本格30周年記念ということで、とんでもないアンソロジーが登場してしまった。
なんと、
麻耶雄嵩さん
山口雅也さん
我孫子武丸さん
有栖川有栖さん
法月綸太郎さん
歌野晶午さん
綾辻行人さん
という7人のレジェンドな作家さんによる、〈名探偵〉をテーマとした短篇が収められているというのだ。
しかも書き下ろしである。
ナンダコレ。
贅沢すぎやしないだろうか。
控えめに言っても言わなくても神アンソロジーである。
こんなもの、どうしたら読まずにいられるというのか…… ( ˘ω˘ )
『7人の名探偵 新本格30周年記念アンソロジー』
1.麻耶雄嵩『水曜日と金曜日が嫌い –大鏡家殺人事件–』
『翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件』で衝撃なデビューを果たした麻耶雄嵩さん。
偶然辿りついた立派な洋館で殺人事件に遭遇、というベタベタに王道な展開が嬉しい。
長編でもいけるようなプロットなのに、それを短篇でビシッと締めてしまうキレの良さ。
そして名探偵メルカトル鮎の登場である。ここでまたメルカトルに出会えるとは。歓喜!!
非常に麻耶さん「らしい」展開に、思わずニヤリ。
山口雅也『毒饅頭怖い 推理の一問題』
有名な落語『饅頭怖い』とミステリを見事に融合させた一品。
「五人のうち二人が嘘をついている」というパズル的要素に加え、あくまで落語として語られていく展開がとても楽しい。
とにもかくにも、お後がよろしいようで。
我孫子武丸『プロジェクト:シャーロック』
まさに「名探偵」をテーマとし、AIによる「名探偵とは?」を追求したSFチックな物語。
「こうくるか!」と思ったし、「うひゃあ、たまんないなあ!」とも思った。
有栖川有栖『船長が死んだ夜』
フィールドワーク中の火村とアリスは、近場で起きた殺人事件に顔を出す。
「船長」というあだ名で親しまれていた男性が殺害されたのだが、なぜか現場から一枚のポスターが消えていた。
犯人はなぜポスターを剥がす必要があったのかという点から見事に犯人を突き止めていく、安定安心の火村英夫シリーズ。
好き。超好き。これを読めただけでも感謝。
名探偵という同一のテーマながら、それぞれの作家さん独特の個性を見せる中で、一番のド直球。いつもの、火村英夫。
論理的推理で本人を追い詰める火村さんは、いつ見てもクールである。
法月綸太郎『あべこべの遺書』
「自分のじゃない。双方の遺書が入れ違って、あべこべになっていたんだ。二人が死んだ場所もあべこべで、どちらも相手の自宅で死んでいるのが見つかった」
169ページより引用
法月綸太郎シリーズ。
ひとりは転落死、もうひとりは服毒死。
現場にはぞれぞれ手書きの遺書が残されていたが、なぜか双方の遺書が入れ違っていた。
一体なぜそんなことになってしまったのか。
ひねって、くるっと回って、ぐちゃぐちゃに。説明されても「お、おう」という感じ。すごいなあ。
歌野晶午『天才少年の見た夢は』
密室となったシェルター内での殺人。
舞台設定が何より好きで、とにかくワクワクしながら読んだ。
ミステリどうこう言う前に、一つの物語として素晴らし。
綾辻行人『仮題・ぬえの密室』
京都大学推理小説研究会では、会員がオリジナルの「犯人当て」を書いて発表するのが伝統行事となっている。
その卒業生である綾辻行人さん、我孫子武丸さん、麻耶雄嵩さん、の三人が団欒していると、我孫子さんが
「むかしミステリ研で、何かその、すごい犯人当てがあったの、憶えてへん?」
261ページより引用
と、言い出した。
しかしミステリ研の記録にも、そんなすごい「犯人当て」は残っていない。
果たして、その「犯人当て」は本当に存在したのか。だとすれば、一体誰が書いたのか。
我孫子武丸さん、麻耶雄嵩さん、綾辻行人さん、小野不由美さんの四人は、「幻の犯人当て」がどんな作品だったのか?を追求していく。
という、完全にファン向けの、ファンのための物語。私は終始、ニヤニヤが止まらなかった。
ラストにふさわしい、余韻が残る。
ありがとうございます、ありがとうございます。
怖いくらい贅沢な、夢のアンソロジー
それぞれの作家さんの持ち味がよくわかる、非常に贅沢な一冊であった。さすが30周年記念!
「名探偵」という同じテーマでありながら、作家さんによってここまで違う内容になってしまうとは改めて驚きである。
個人的には、推理小説としてなら、やはり有栖川有栖さんの『船長が死んだ夜』がベスト。
物語としては、綾辻行人さんの『仮題・ぬえの密室』がやっぱり好きだ。
ミステリ好きならまず読んで間違いない、というか絶対手元においておきたいアンソロジーである。こんな神作品、滅多にあるものではない。
もし未読であるなら、これを機に、それぞれの作家さんの作品を網羅していくのも良いだろう。
……しかし、先日ご紹介した『十角館の殺人 限定愛蔵版』をはじめ、ここ最近「新本格30周年記念」ということで魅力的な本が次々に出版されている。
買わずにはいられないものばかりなのだ。
どれだけお金を搾り取られるのだろう。
ヘルプミー、である。
7人の名探偵 新本格30周年記念アンソロジー (講談社ノベルス)
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