シャーリイ・ジャクスンといえば「日常に潜む狂気」の描き方がとても魅力的な作家さんである。
『丘の屋敷』は心霊現象が起きる屋敷が舞台であり、確かに怖い物語なのだが「普通のホラー小説」ではない。
『ずっとお城で暮らしてる』に関しても、怖いというより「狂気じみたお話」である。
この不穏な空気をぜひ味わおう!という事で、ぜひ読んでいただきたいシャーリイ・ジャクスンのおすすめ作品を選ばせていただいた。
長編2作品、短編集2作品となっており、どれから読んでいただいても問題はない。
参考にしていただければ嬉しい。
1.『丘の屋敷』 改題前『たたり』
幽霊屋敷小説の傑作である。
スティーブン・キングの代表作『シャイニング』は、この『丘の屋敷』に影響を受けて書かれている。それほどにキングが絶賛したのだ。面白くないわけがない。
心霊研究科のモンタギュー博士を含めた4人の男女が幽霊屋敷に向かい、心霊現象の謎を解明しようとするのだが……という物語。
まず幽霊屋敷の設計が素晴らし。物語はもちろん「屋敷そのもの」が魅力的というのがポイントだね。すぐに引き込まれてしまうのだ。
もちろん心霊現象は恐ろしいのだが、今作ではさらに恐ろしいものが描かれている。それが何かは、ぜひ本書で。
ストーリー展開もさることながら「恐怖の描き方」が巧みであり、ただ怖いだけでない感情を味わせてくれるのだ。たまらん。
2.『ずっとお城で暮らしてる』
シャーリイ・ジャクスン代表作の一つ。作家・桜庭一樹さんが‘’本の形をした怪物’‘と評した傑作である。
かつて殺人が起きたお城で暮らしている姉妹(+伯父)を中心とした物語。
村の人々からは忌み嫌われており、閉鎖的ながらも幸せに生活をしていたのだが。従兄弟のチャールズがやってきたことをきっかけに何かが崩れていく。
先ほどご紹介した『たたり』とは全く別のタイプの怖さ。狂気的とも言える「姉妹二人だけの世界」をぜひ目にしていただきたい。
著者らしい「狂気」というものが存分に描かれており、読めばなぜ人々がシャーリイ・ジャクスンに魅了されるかがわかるはずである。
確かに怖い。でも、この怖さはイヤではない。ずっと浸っていたいような怖さなのだ。
3.『くじ』
名作『くじ』が収められた二十二編からなる短編集。
どのお話も後味が悪いが「最高に怖い」とか「最悪」とまではいかない。日常に潜む不穏な空気を描いた、いわゆる「奇妙な味付」である。
確かに一編一編に盛られている〈毒〉は少量かもしれない。しかしそれが二十二編も連続するとエライ事になるのだ。
読みやすいのはもちろん短いぶんキレがあり、長編にはない読後感を残してくれる。長編だけでなく短編も巧いというわけだ。ああ!素晴らしきシャーリイ・ジャクスン!
あまりに『くじ』が名作扱いされるので「他の作品は面白くないのか」と思いがちがだもちろんそんな事はない。『くじ』より面白いんじゃない?と思える作品だってある。
『おふくろの味』とか最高に好み。
4.『なんでもない一日』
ジメジメした空気が漂う短編(ショートショートくらい)23編&エッセイ5編。
とにもかくにもシャーリイ・ジャクスンらしさを堪能できるので、長編に手を出しにくかったらまずはこの作品からでも読んでいただきたい。
先ほども述べたが、イヤな話なのにイヤじゃないのだ。これがどういうことなのか、私にもわからない。
お寿司の「わさび」みたいな感じかな。ピリッとツーンとくるんだけどそれがいい。一度ハマってしまうとそれなしではいられない、みたいな。
雰囲気は同じなんだけど後味は異なる、というのも魅力的なポイント。短編はもちろん、おまけ程度かと思っていたエッセイがまた面白いんだから最高なのだ。
なんでもない一日 (シャーリイ・ジャクスン短編集) (創元推理文庫)
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