『消失グラデーション』は作家・長沢樹(ながさわいつき)さんによる「樋口真由“消失”シリーズ」の一作目。
とある高校のバスケ部員たちを中心としたミステリー小説であり、彼らが抱える苦味を描いた青春小説でもある。
加えて非常に「どんでん返し」が強烈なので、私的にも非常に好みの作品だ。「やられた!」と叫びたくなるミステリ小説がお好きならぜひ読んでみてほしい。
『消失グラデーション』のあらすじ
舞台となるのは私立藤野学院高校。
男子バスケ部員である椎名康は、ある理由から、女子バスケ部のエースである網川緑が校舎の屋上から転落している場面を目撃する。
椎名は急いで網川緑の元へ駆けつけるが、そこで何者かに襲われて気を失ってしまう。
そして目がさめると、血の跡だけを残して網川緑の体は消失していた、というわけである。
これだけでも不思議だが、さらに状況は複雑になる。
まず、学校には監視カメラが設置してあった。そのカメラには不審な人物(網川緑を運んでいる人物や、大きな荷物を持っている人物)は写っていなかった。
そして、その時間帯には部活動をしていた多くの生徒がいた。カメラが行き届かない場所でも、「人の目」によって学校は監視されていたのである。
つまり網川緑は、カメラと衆人環境からできた「密室」状態の学校から消失ことになる。
さて面白いことになってきた。この時点で浮かび上がる謎を整理してみよう。
1.網川緑は自ら飛び降りたのか、それとも何者かに突き落とされたのか?
2.「密室」状態の学校からどうやって消えたのか。
3.網川緑はなぜ消失しなければならなかったのか。
4.網川緑はどこにいるのか?生きているのか、死んでいるのか。
なんと魅力的な謎の数々。フーダニット、ハウダニット、ホワイダニットのてんこ盛りである。
このどんでん返しはアリか?いや、アリだ。
さて、終盤ではそれらの謎を解決していくわけだが、そこで読書は驚愕の真実を知ることになる。これがこの作品の大きなポイントであり、特徴であるのだ。
しかし、このどんでん返しに対して否定的な意見も少なくない。「騙そうとしてる感がすごい」「無理やりすぎる」「設定の都合が良すぎる」などの意見が多いようだ。
確かにそうなのだ。この作品を「本格推理小説」としてみるなら、細かい部分が気になってしまうのもすごくわかる。都合が良すぎるのだ。
が、だからどうした、という話である。私としては大アリだ。アリアリだ。
純粋に「どんでん返しがすごい青春ミステリ」としてであればこの作品は間違いなく傑作である。
本格推理小説として読むと評価が分かれる名作は他にも、歌野晶午さんの『葉桜の季節に君を想うということ』や、乾くるみさんの『イニシエーション・ラブ』、道尾秀介さんの『向日葵の咲かない夏』などが挙げられる。
いずれの作品も「あの衝撃を作り出すための物語」で、どれも展開に違和感があったり、ご都合主義の設定に目がいってしまう、という意見が多いのである。
しかしながら、私はこのような「一撃」にかけたミステリー小説も大好きなのだ。
でも注意が必要ね
ただ一つ、ミステリー小説をあまり読みなれていない方がこれらの作品を読んで、「ミステリー小説はこういうものだ」と思ってしまうと少々いただけない。
刺激が強すぎるのである。
最初の方にこのような作品を読んでしまうと「このくらいのどんでん返しが当たり前」になってきてしまって、しまいには「どんでん返しが弱いミステリはつまらない」、なんて事になってきてしまう。
なのでわかっていただきたいのは、このような作品はあくまでミステリー小説の中の1つのタイプであって、むしろ特殊な方である、と。
ぜひその点を考慮した上で、『消失グラデーション』を存分に楽しんでみていただきたい。
コメントを残す