後味が悪い話がお好きな方にぜひオススメしたいのが、曽根圭介(そねけいすけ)さんのおすすめ名作ホラー短編集『鼻』と『熱帯夜』である。
今回は『鼻』に収録されている『暴落』『受難』『鼻』の3編のあらすじをご紹介させていただきたい。
いずれの物語も「後味が悪い」というだけでなく、世界観の構築と展開がホントに面白い。
3編ともが〈名作〉と言えるクオリティなのである。
最高だね!
1.『暴落』
この世界では、人間の価値と評価が全て「株」によって決められている。
良い行いをすれば自分の「株」は上がり、悪い行いをすれば自分の「株」は下がる。
もちろん悪い人物を付き合えば自分の株は下がり、知り合いが犯罪を犯せば、その人物と知り合いというだけで自分の株が下がる。
この世界では自分の「株」が全てなのである。
そんな株に支配された世界で、一流企業に勤める〈エリート圏〉の主人公は、フリーターの兄が原因で自分の株が下がっていることに気がつく。
そんな兄と縁を切るため、自分が持っている兄の株を全部売ることにした主人公。そうすれば、兄とは兄弟ではなくなるので、自分の株が下がることは無くなるというわけだ。
しかし、そのことをきっかけに〈エリート圏〉の主人公の大暴落劇が始まるのであった。
最高の転落劇
この世界では株が大暴落して〈不審者圏〉に落ちてしまうと、ほとんど人間として扱われなくなる。
このお話では、主人公が病院のベッドで〈エリート圏〉から〈不審者圏〉へ落ちていった出来事を語っていく、というスタイルなのだが……。
まさかあんなオチが待っていようとは。後味、悪し。
2.『受難』
ビルとビルの間の狭い通路に、手錠で拘束された男の話。
俺がいるのは、都市に無数にある空間、薄暗くてかび臭い、ビルとビルの間だ。
どのビルも壁はコンクリートがむき出しで、地面は簡易舗装すらされていない。壁際には側溝が走り、異様な色をした水が、ゆっくりと流れていた。
周囲には段ボール、錆びた自転車、壊れたテレビなどが散乱している。粗大ゴミや資源ゴミの、不法投棄場になっているらしい。
109ページより
気がついたらこんな場所にいた。なんでこんな事になったか全く思い出せないのだ。
手錠は固くちぎれそうもない。携帯も財布もない。
しかし20メートルくらい先には、出入りのためと思われる鉄扉がある。その向こうは大通のようで、車の行き交う音が聞こえていている。
どうやら近くに人はいるようである。
だが二日経っても誰にも気づかれず、喉はカラカラ。
もはやドブの水を飲むしかないのか……と思ったその時。
鉄扉が空いたのである。
そこに立っていたのはOL風の女性。ビックリした顔をしている。
これで助かった!警察を呼んでくれ!と頼む主人公。
しかし、事態は思いもよらぬ展開へと転がっていく。
3.『鼻』
さて、表題作の『鼻』である。
この世界の人々は〈ブタ〉と〈テング〉の二種類の人種に差別されている。
〈テング〉の人々は〈ブタ〉から酷い仕打ちを受けていて、まともに生活することもできない状況にある。
そんな世界で医者を務める”私”は、〈テング〉の親子と出会い「転換手術をしてほしい」と助けを求められる。
しかし、この世界で転換手術をするのは完全な違法である。
なので”私”はその頼みを断ったものの、どうしてもその親子が気になってしまい……。
というあらすじ。
二つの物語が絡み合う
そしてこのお話ではもう一つ、とある事件を追う刑事の物語が語られていく。
つまり「医師の”私”」と「刑事」の二つの話が交互に展開されていくのだが、やがてこの二つの物語は奇妙に繋がっていく。
そしてラストにまさかの展開が待ち受けているのだ。
この『鼻』は、怖いというより「やってくれたな!」という後味の作品である。
話の展開が実にお上手であり、グイグイ読まされた後に頭をガツン!とやられる感じが最高なのだ。
『鼻』の次は『熱帯夜』で決まり。
もし『鼻』を読んでいただいて「曽根さんめっちゃ面白いやん!(゚∀゚*)」と思っていただけたなら、『熱帯夜』という短編集も続けて読んでみよう。
『熱帯夜』『あげくの果て』『最後の言い訳』の3編からなる短編集であり、これもまた素晴らしい面白さを誇る。
ブラックユーモアがたっぷり詰まった曽根ワールドを存分に堪能していただきたい。
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