アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』が大好きだ。
そしてそのオマージュ作品も大好きだ。ハリボーのグミと肩を並べるほどに好きだ。
というわけで、今回は『そして誰もいなくなった』を意識して書かれた日本のミステリー小説をご紹介させてほしい。
どれも『そして誰もいなくなった』好きにはたまらない作品となっている。
ただ、これらの作品は『そして誰もいなくなった』をすでに読んでいることが必須条件となるので注意しよう。
参考にしていただければ幸いである。
1.『殺しの双曲線』
西村京太郎(にしむらきょうたろう)さんの最高傑作である。
十津川警部が活躍するトラベルミステリーのイメージが強い方も多いと思うが、この作品は「外部から孤立した雪の山荘を舞台に、招かれた人々が次々に殺されていく」という王道のミステリー小説なのだ。
さらには山荘とは別の場所で「連続強盗事件」まで発生。全く関係のないように思える二つの事件はこの先どうやって繋がっていくのか。
『そして誰も』を彷彿とさせる本格要素が満載であり、全てが見所と言っても良いくらいだが、特に注目していただきたいのは「読者への挑戦」。
この推理小説のメイントリックは、双生児であることを利用したものです。
何故、前もってトリックを明らかにしておくかというと、昔から、推理小説にはタブーに似たものがあり、例えば、ノックス(イギリスの作家)の「探偵小説十戒」の十番目に、「双生児を使った替え玉トリックは、予め読者に知らせておかなければ、アンフェアである」と書いてあるからです。『殺しの双曲線』 6ページより
このように、作品の冒頭に「メイントリックに双子を利用している」と宣言している見事にフェアなミステリである。
使用されているトリックを最初に暴露するミステリー小説がどこにあるのだ。それ言っちゃっていいの?ってなる。
にもかかわらず、私たちは真相を見抜くことができない。アンビリーバボーだ。
大御所すぎて逆に読んでいない、西村京太郎さんの作品ってなんか読みにくそう、二時間サスペンスの人でしょ?、と偏見を持っている方こそぜひ読もう。めちゃくちゃ読みやすいし面白いんだから。
2.『十角館の殺人』
綾辻行人(あやつじゆきと)さんのデビュー作にして〈館シリーズ〉の一作目。
いわゆる「新本格」ブームを巻き起こした張本人である。この作品を読んでミステリー小説にハマった、という方も多いだろう。
とある孤島に佇む〈十角館〉に訪れた大学生七人に殺人事件が降りかかる、という非常にオーソドックスな本格もの。
その魅力は多くあるが、なにより衝撃的なのはあの一撃である。
よく「頭をハンマーで殴られたような衝撃」という表現があるが、この場合は「頭にジャンボジェット機が突っ込んできた」という感覚に近い。なにが起きたかわからず「え?」ってなる。
作家・辻村深月(つじむらみづき)さんや北山猛邦(きたやまたけくに)さんも、この『十角館の殺人』を読んでミステリに夢中になったという。まあとにかく日本のミステリ界に大きな影響を与えた作品なのだ。
『そして誰もいなくなった』のオマージュ作品だから、とかそんな理由ではなく、数あるミステリー小説の中でもずば抜けた傑作であるのでまず読んでおいて間違いない。
3.『そして五人がいなくなる』
はやみねかおるさんによる、自称名探偵の夢水清志郎を探偵役としたシリーズの一つ。子どもの頃どハマりした。
まさに「大人が読んでも面白い児童書」である。
とっても読みやすいし、心が温まり「読んでよかったなあ」と思えるタイプの作品なのだ。
衝撃のトリックにびっくり!というより、ドキドキが詰まった物語であり、子供になったような気分で純粋に謎にワクワクさせてくれる。
しかし子供向けだからと言ってあまく見ていると、巧妙な伏線とトリックに「ワオ!」となることだろう。
サイゼリアの間違い探しにナメて挑むと「あれ?難しくね?」となるのと同じである。
正直に言うと似ているのはタイトルだけで、クリスティのオマージュ感はほぼない。
が、本当に面白い作品であるので、この機会にぜひ読んでいただきたいのだ。
4.『ジェリーフィッシュは凍らない』
21世紀の『そして誰もいなくなった』と評され、2017年の「このミステリーがすごい!」で10位となった本格もの。
乗組員を乗せた小型飛行船〈ジェリーフィッシュ〉がトラブルによって雪山に不時着し動かなくなった。
完全な〈雪の山荘〉と化したジェリーフィッシュの機内で、次々に乗組員が殺されていく。という本格好きにはたまらない舞台設定でのミステリ。
さらに「ジェリーフィッシュ内で起きる惨劇」と「その事件を調べる刑事たち(この刑事たちのキャラが良い)」の章が交互に展開されていく構成によって、ページをめくる手を止めさせない徹夜設定になっている。
本格ものでありながらライトな文体でスラスラと読めてしまうのも嬉しいポイント。
構成もしっかり練られているし、伏線の敷き方、謎の提示の仕方なども絶妙にお上手。とても新人作家さんとは思えないクオリティである。
市川憂人さんはこれからどんな作品を書いてくれるのか、楽しみで仕方がない。ユーモアのある刑事コンビがとても魅力的だったので、ぜひシリーズ化していただきたいところだ。
5.『そして誰もいなくなる』
今邑彩(いまむらあや)さんによる学園ミステリ。
名門女子校で演劇部が『そして誰もいなくなった』の舞台を行っていた最中、死に役の生徒が本当に死んでしまう。
その後も演劇部の生徒が舞台の筋書き通りに殺されていく、というガッツリ『そして誰も』を意識した本格ものだ。
『そして誰もいなくなった』のオマージュ作品というと、孤島や館でのクローズドサークルがが舞台になるものが多いが、今作は女子校という〈誰もが出入りできる場〉でやってのけているのもポイント。
かなり読みやすい文体だし、ストーリー展開も非常にわかりやすい。それでいて二転三転からラストの捻りも見事に決まっている。
ただのオマージュにあらず、一つのミステリ小説として非常におすすめできる作品である。

6.『そして二人だけになった』
問題作である。
名作『すべてがFになる』で始まる〈S&Mシリーズ〉でおなじみの森博嗣(もりひろし)さんの作品。
海水に囲まれた完全な閉鎖空間で六名の人間が次々と殺されていく、といういかにもな本格設定なミステリだ。
だが何を隠そう、最大の見所は賛否が大きく別れるあのオチである。「ふざけるな!」「ありえない!」「読んで損した!」などの声が挙がるのも無理はない(私は「やってくれたな!」という喜びの気持ちが強かったけどね)。
まあ間違いなくオチには賛否あるが、始まりから終盤に一歩手前くらいまでは皆同様に楽しんでいただけるだろう。
ミステリ小説のおすすめというか、「こんなミステリがあっていいのか」という想いを味わっていただきたい。
ただどんな感想をもったとしても、私を怒らないでほしい。
おわりに
他にも夏樹静子さんの『そして誰かいなくなった』や ジャックマール=セネカル『そして誰もいなくなった殺人事件』などのオマージュ作品もなかなか面白いので、気になった方はぜひそちらも読んでみよう。
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