倒叙ミステリのおすすめ10選-犯人視点だからこそのスリルを堪能しよう!

倒叙(とうじょ)ミステリとは、はじめに犯人や犯行過程を明らかにし、主に犯人視点で物語が展開されていく作品のこと。

普通のミステリー小説では主に《フーダニット(犯人は誰なのか?)》をメインにしたものが多いが、倒叙ものには当然それがないのだ。

「犯人が最初からわかっていたら面白くないじゃん」と思われるかもしれないが、それは実際に読んでみてから判断していただきたい。

犯人視点だからこそ、探偵との心理戦がとーっても面白いのだ。基本的に終始ドキドキしっぱなしである。だから心臓にはよくないので注意しよう。

つい犯人を応援したくなるし、探偵が敵に見えてくるのも楽しいポイントだ。

1.『クロイドン発12時30分』

 

名作『樽』でおなじみのF・W・クロフツの作品。

工場の経営が危なくなったので、おじを殺害して遺産をもらおう!と考えたチャールズのお話。

フランシス・アイルズ『殺意』、リチャード・ハル『伯母殺人事件』と並び「世界三大倒叙ミステリ」と称されるものの一つである。

いわゆる「古典的名作」と呼ばれる部類であり、ミステリ小説がお好きなら一度は読むことをオススメしたい。

ただ、正直に言って今読んでも「めっちゃ面白いやん!!」とはならないかもしれない。当時読めばもっと楽しめたのだろうが、現代はもっと面白いミステリが多く存在してしまうからだ。派手さもなく、地味である。

だがしかし!

綿密に練られた構成と人間描写の巧みさは見もの。それでいてスリリングで一気に読ませる筆力がある。ミステリというより一つの読み物として面白いのだ。

じゃあもう読むしかないよね。

2.『サウサンプトンの殺人』

 

同じくF.W. クロフツ。

ライバルであるセメント会社の工場に忍び込んだら警備員に見つかってしまい、つい殺してしまった。なんとか事故に見せかけようとするが、フレンチ主席警部の目はごまかせそうもなく……。

『クロイドン発12時30分』ほどの知名度はないものの、倒叙モノとしての面白さはピカイチなのだ。いや、正確に言うとちょっと異質な倒叙であり、クロイドンとは違った展開を見せてくれる。

終始サスペンスに溢れており、企業による犯罪小説として読んでも楽しいのもポイントの一つ。

やはり犯人が追い詰められていく様は面白い、というか「やめてあげて」という気分になる。

3.『死の接吻』

 

言わずと知れた海外ミステリの名作。

財産目当てで交際していた女性・ドロシイが妊娠してしまった。これはやばい、と悟った「彼」は彼女を自殺に見せかけて殺してしまう。

倒叙ミステリというものは基本的に犯人が誰かわかっているものが多いが、この作品は犯人視点でありながら途中まで犯人が誰かわからない仕組みになっている。

倒叙ミステリでありながら犯人当てまで楽しめてしまうのだ。この構成が実にうまい。

第一部では犯人視点で物語は進み、第二部では殺されたドロシイの次女が探偵役となって進行していく。で、二部の最後に犯人である「彼」の正体が明かされて「おおお!」ってなる。

そして三部では……、おっと、ここまでにしておこう。この三部は超面白いぞ。

4.『青の炎』

 

貴志祐介(きしゆうすけ)さんの代表作の一つ。

10年前に母親が再婚した「曾根」という男が最悪な人間であり、その男から家族を守るために完全犯罪を計画した高校生の戦いの物語。

倒叙ミステリというものはつい犯人を応援したくなってしまうものだが、今作はその感情が圧倒的に強い。

この記事でご紹介している倒叙ミステリの中でも「犯人を助けてあげたい度」はダントツ一位である。

追い詰められていく主人公以上にこっちがドキドキしてしまい、気がつけば手汗で文庫本が湿ってしまうほどに焦る(ほんとに)。

主人公が高校生と言うこともあり、完全犯罪として練った計画にはいくつもの穴がある。だから余計にハラハラしてしまうのだ。

間違いなしの名作なのだが、わたしはどうしても読み返すことができない。辛くなってしまうからだ。

5.『扉は閉ざされたまま』

 

これほど探偵に恐怖感を覚える作品も珍しい。

作家・石持浅海(いしもち あさみ)さんによる碓氷優佳(うすいゆか)シリーズの一作目。国内の倒叙ミステリの中でもピカイチの面白さを誇る作品なのだ。

ペンションで行われていた同窓会の中、主人公・伏見亮輔は殺人を犯し、さらに密室を作り上げる。しかし、そこに居合わせた碓氷優佳が違和感に気がつき、犯人をジワジワ追い詰めていくという展開になる。

普通なら、①「あれ、〇〇さんどこいった?」②「部屋に行ってみよう」③「あれ、ドアが閉まってる!ぶち破ろう!」④「死体発見!きゃー!」という展開になるだろう。

しかし今作ではそうはいかない。

なんと物語の最後まで密室の扉が開かれないのだ。

碓氷優佳は密室のドアを開けることなく、犯人の些細な行動から事件を察し、推理していくのである。これをぜひ目にしていただきたい。本当にすごいのだ。その洞察力は天才的というか、むしろ恐ろしい。

まるで自分が犯人になった気分になって、碓氷優佳の言動一つ一つに「ビクッ!」としてしまうだろう。これぞ倒叙ミステリの醍醐味である。

さらに続くシリーズ第二弾『君の望む死に方』も非常に面白い倒叙ミステリとなっている。一作目を面白いと思っていただけたなら、ぜひ続けて読むことをおすすめするよ。

6.『99%の誘拐』

 

『クラインの壺』と並ぶ岡嶋二人(おかじまふたり)さんの代表作の一つ。

12年前に起きた誘拐事件に関係するような、新たな誘拐事件が発生する。しかもただの誘拐ではなく、コンピューターに制御されたハイテクな誘拐である。

それでいて内容はいたってシンプルでスマート。難しいことは何もなく、スルスルと読むことが出来る。

コンピューターを駆使しての誘拐、というかなりインテリな犯人の行動に注目しよう。超天才なのだ。その華麗さに思わずウットリしてしまうだろう。

さらに今作が出版されたのは1988年というのだから驚きである。なぜ、今読んでも色褪せないのだ。当時に比べてコンピューターがどれほど進化していると思っている。

「今だったらなんとか出来るかもしれない」と思えるくらいなのだから、当時はもっと衝撃的な内容だったのだろう。もはやSFに近かったのではないか。

まさに完璧とも言える誘拐計画に、そんな上手くいくわけがない……と思いながらもグイグイ読まされてしまう。とにかくすんごいドキドキワクワクするのだ。

なぜ今も名を名作として読まれ続けるのか、その理由は読めばすぐにわかる。

7.『容疑者Xの献身』

 

東野圭吾さんの代表作の一つ。映画も大ヒットしたので知っている方も多いだろう。

天才VS天才を描いた、儚い物語。

映画を見たので内容を知っている、という方もぜひ読もう。むしろそういう方にこそ読んでいただきたい。同じ作品でありながら、全く違った表情を見せてくれるのだ。

映像では汲み取ることのできなかった心理描写が丁寧に綴られており、改めて東野圭吾さんの「凄さ」を思い知らされることになる。

ミステリとしてのクオリティは言うまでもなく素晴らし。それでいて人間ドラマの描き方が巧みであり、ため息が出るほどの読後感を残してくれる。ほんと、読み終わった後しばらく動けないからね。

ミステリ小説という以前に一つの物語としておすすめしたい。

全ては、愛する人のために。

8.『福家警部補の挨拶』

 

古畑任三郎シリーズや刑事コロンボを足して2で割って女性版にした感じ。

ド派手さはないものの(それがいい)、安定安心の良質な倒叙ミステリが楽しめるシリーズである。

ここでご紹介している作品の中でも一番の正統派。シンプルかつクオリティが高い、という倒叙のお手本のような作品なので、倒叙ミステリをあまり読んだ事がない方にもオススメしたい。

また短編集なので読みやすく、それでいて密度が濃くまとまりがあるのも嬉しいポイントだ。

シリーズはこのあと第二弾『福家警部補の再訪』、第三弾『福家警部補の報告』、第四弾『福家警部補の追及』へと続く。もちろん全て倒叙ミステリである。心ゆくまで楽しもう。

9.『魔法使いは完全犯罪の夢を見るか?』

 

東川篤哉(ひがしがわとくや)さんらしいユーモアミステリー。刑事たちと魔法使い、という奇妙な組み合わせが事件を解決していく短編集である。

よくある本格ミステリとは違い「魔法」を普通に使っちゃうのがポイント。東川篤哉さんならではの設定が生き生きしていて、これがとっても面白いんだ。エンタメ小説といっても良いくらいスルスル読める。

キャラがよくて、ユーモアがあって、読みやすくて、それでいて倒叙ミステリの楽しさというものもしっかり楽しめるのが凄いところ。

ここで紹介してる作品の中でも一番気軽に読めるので、ぜひお気軽に手に取ってみてほしい。

おわりに

私がおすすめする倒叙ミステリはこんな感じ。

もし倒叙ミステリを気に入っていただけたなら、他にも深水黎一郎(ふかみ れいいちろう)さんの『倒叙の四季 破られたトリック』や、西澤保彦(にしざわ やすひこ)『狂う』なども良いかも。

ぜひ「倒叙の面白さ」というものを味わっていただければ幸いです。

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