この世の中に「優しい気持ちになれる小説」「心が温まる小説」というのは多く存在するが、その中でも『東京すみっこごはん』は間違いなしの名作である。
美味しいごはんを食べて、優しい人々と触れ合って、少しづつ成長していく。
そんな「お決まりパターン」とも思える設定ながら、『東京すみっこごはん』は一味も二味も違うのだ!
『東京すみっこごはん』あらすじ
まず面白いのは舞台となる「すみっこごはん」の設定である。
このお店は普通の定食屋ではない。
他人同士が集まり、その場で食事当番をクジで決めて、その人が作った料理を食べる、という決まりがあるのだ(超人見知りの私にはちょっと辛い)。
他にも、
・一ヶ月ごとに更新する会員制
・月に一度の会費以外に、参加日ごとに材料費を徴収。
・受付は五時半まで、三人以上六人未満で実施。
・レシピノートがあるのでその中から選ぶ。なるべくレシピ通りに。
などなど、全部で10個ほどのルールがある。
そんな「すみっこごはん」を舞台に、悩める人々が集まって、ご飯を食べて、元気になっていくっていうお話を集めた連作短編集なのだ。
もう癒されまくり、元気でまくりである。
1.いい味出してる女の子
主人公は、高校でいじめを受けている女の子・楓ちゃん。
学校にも家庭にも悩みを抱える彼女は、ひょんなことから「すみっこごはん」と出会う。
かなり変則的な「すみっこごはん」に最初は戸惑うも、おいしいごはんを食べ、人の温かさに触れていく中で楓ちゃんは成長していく。
2.婚活ハンバーグ
三十五歳の会社員・奈央。
料理が得意ではなく、化粧もテキトー。女子力低めの自覚ありな彼女。
同年代の人たちが次々に結婚していく中、将来に不安を感じずにはいられない。
もうすでに「すみっこごはん」の常連である彼女は、ある日すみっこごはんに来たミュージシャンと出会い、少しづつ変化していく。
そんな奈央ちゃんが婚活を頑張るお話。がんばれ!
3.団欒の肉じゃが
貧しい妹とおばあちゃんのために必死に勉強し、日本へと働きに来たタイ人留学生のジェップ君。
しかし日本についてすぐ、妹から「条件のいい仕事につけた」という連絡がくる。お兄ちゃんの助けがなくても大丈夫、だというのだ。
では僕は何のためにここにいる。
自分の人生に光を見出せなくなったジェップ君。
しかし「すみっこごはん」の常連・柿本に無理矢理お店に連れてこられたことで、彼は。
4.アラ還おやじのパスタ
すみっこごはんの常連で、洋食がとてもうまい丸山さんのお話。
すみっこごはんの人たちから愛される丸山さんだが、彼には妻にも言えない秘密があった。
彼の熱狂的とも言える趣味は、ある女性のブログを見ることで……。
お腹もいっぱい、心もホカホカ
悩み落ち込み、それでもすみっこごはんをキッカケに精一杯生きていこうとする彼らを見ると、読んでいるこっちの方まで生きる気力が湧いてくる。
単純かもしれないが、ほんとにそうなのだ。
自分も彼らのように一歩を踏み出してみよう、と思えるのだ。
私はこの作品を読んで実際に元気をもらえたし、心が救われた。読んで良かったと本気で思った。
しかも出てくる料理はどれも美味しそうで、
①お腹がとても減ってくる→②おいしいごはんが食べたくなる→③実際に食べる→④心も体も元気いっぱい!
という素晴らしい流れに持ち込むことができる。
断言しよう。
人は、おいしいごはんを食べると元気になれる。
そして毎日テキトーに一人でごはんを済ませていると、お腹は満たされていても心に元気が無くなってくる、と。
これぞ連作短編集の良さ
先ほど簡単にご紹介したように、この作品は「すみっこごはん」を舞台にした連作短編集となっている。
主役となる人物は異なるものの、それぞれの話に繋がりがあるため必ず順番に読もう。
連作短編の良さを存分に活かしたストーリー構成になっているので、ぜひ最後まで楽しんでいただきたい。
そして最後、すみっこごはんの秘密が……おっと、ここまでにしておこう。
悩みを抱えていたり、嫌なことがあって落ち込んでいる方がいらしたら、ぜひおすすめしたい作品だ。きっと元気を優しさを貰えるはずであるーー。
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