恒川光太郎(つねかわ こうたろう)さんの作品は、ホラー小説というより幻想小説に近い。
確かに奇妙なのだがなぜか「怖い」という感覚はなく、「不思議な世界に迷い込んでしまった」という感じなのだ。
今回はそんな恒川光太郎さんの作品の中で、「まずはコレから読んでほしい」というおすすめ小説をご紹介させていただきたい。
どれも恒川ワールド全開であるので、読んでいただければすぐに魅了されてしまうことだろう。
1.『秋の牢獄』
3つの中編小説が収められた「幻想怪奇作品集」。『夜市』と並ぶ傑作である。
表題作『秋の牢獄』は、女子大生の藍が同じ1日(11月7日)を何度も繰り返してしまう物語。
北村薫さんの名作『ターン』を思わせるような、SF小説でおなじみのタイムリープものである。
まさに「11月7日」という牢獄に閉じ込められてしまったわけだ。
永遠に明日がこないのではないか、という状況の中、藍は自分と同じように1日を繰り返してしまう「リプレイヤー」と出会い物語は動き始める。
ありふれた設定のように思えるが、恒川光太郎の手にかかれば「良くあるタイムリープもの」ではなくなってしまう。読後の余韻も格別である。
このほか『神家没落』と『幻は夜に成長する』の2編も、特別な牢獄に閉じ込められてしまった者を描く物語。
いずれも「怖い」というより「幻想」という言葉がぴったりな、恒川光太郎さんらしい世界観の堪能できるのだ。
2.『夜市』
恒川光太郎さんの代表作にして傑作。
『夜市』と『風の古道』の2編からなる作品集である。
ホラー小説というより「幻想小説」と言えるこの2編は、ほかの作家さんでは味わうことのできない不思議な世界を覗かせてくれる。
表題作『夜市』は、弟と引き換えに「野球の才能」を手に入れた少年の物語。それから時は経ち、罪悪感に追われる彼は弟を取り戻すため、再び夜市に訪れる。
非常に惹かれる物語はもちろん、この「夜市」そのものの奇妙な雰囲気が大好きだ。一度でいいからこの「夜市」に行ってみたい。買い物をするのは怖いけれど。
もう一方の『風の古道』も実に奇妙な世界観であり、小金井公園で迷子になり「不思議な道」へと迷い込んだ私を描く物語である。こちらのお話も絶品であり、『風の古道』の方が好きという方も多い。
わたしはどっちも好きだ!選べん!
3.『雷の季節の終わりに』
上にご紹介させていただいた2作品を読んで「この世界観好き!大好き!」となったなら、ぜひこの作品も読んでいただきたい。
デビュー作『夜市』の次に発表された、著者初の長編小説である。
短編であれだけ濃厚だった物語は長編になっても薄まらず、むしろスケールが大きくなって圧倒されてしまうほどになった。
舞台となるのは、遠い昔から存在していた「穏(おん)」という隠れ里。現実の世界からは見ることができず、もちろん地図にも載っていない。
この集落の特徴は、冬から春になるまでの間に「雷の季節」と呼ばれる短い季節があること。
今作ではそんな「雷の季節」に起きる奇妙な出来事の数々を描いている。
細かなところまで丁寧に構築された「穏」の舞台設定と構成は圧巻であり、読むものをグングン引き込んでいく魅力がある。
幻想的な中に潜む「怪しげ」な雰囲気に病みつきになってしまうのだ。
そうなってしまったら、恒川光太郎さんの作品を全部読んでしまおう。私は『夜市』→『雷の季節の終わりに』と続けて読んで完全な中毒になった。
おわりに
今回ご紹介させていただいたのは、まだ恒川さんの作品を読んだことがない!という方に向けた「まずはコレから」というおすすめ作品であって、他にも面白い作品はたくさんある。
・『竜が最後に帰る場所』
・『南の子供が夜いくところ』
・『金色機械』
とかね、挙げたらキリがないんだ。
なので、まずご紹介した3作品を読んでみて、好みだったらぜひ他の作品も読んでいただきたい。きっとハマっていただるだろう。
存分に恒川ワールドを堪能してくれたまえ!
コメントを残す