【氷菓】米澤穂信さんのおすすめミステリー小説10選を語りたい

最初は5作品くらいに厳選しようと思っていたのだが、実際選んでみるとどれも捨てがたく、結局10作品になってしまった。

これでも頑張って厳選した方である。むしろ褒めていただきたい。

私が優柔不断なのではなく、それだけ米澤穂信(よねざわほのぶ)さんの作品は面白いものが多い、ということだろう。

今回選んだのは、すべて〈ミステリー小説〉に分類されるものばかり。

しかし、ファンタジー、本格、青春、ダーク、などジャンルも読み心地も様々で、それぞれに確立した面白さがあるのだ。

ぜひ参考にしていただければ嬉しい。

1.『折れた竜骨』

 

12世紀、架空の中世ヨーロッパを舞台としたファンタジーミステリーの傑作である。個人的な、米澤穂信さんの最高傑作でもある。

特徴は、この世界に「魔術」が存在していること。その中で確実な本格ミステリを魅せてくれるのだ。

「魔術があるならなんでもできるじゃん」と思うかもしれないが、この世界と設定だからこそできる本格ミステリというものが楽しめる。これをぜひ目にしていただきたいのだ。

もう一度言う、この世界でしかできないのだ。それは一体どういうものなのか。そんなの気になるに決まっているではないか!

解決編ではいたるところに忍ばされた伏線を丁寧に回収していき、驚きの結末へとつなげていく。

世界観は重厚であるが、文体は非常に読みやすいのも嬉しいポイントである。

2.『儚い羊たちの祝宴』

 

長編の最高傑作が『折れた竜骨』ならば、短編集の最高傑作はこの『儚い羊たちの祝宴』である。

〈バベルの会〉という読書サークルを軸にした、暗黒ミステリが五篇。当然ながら一編一編のクオリティがとても高い。特に『身内に不幸がありまして』や『玉野五十鈴の誉れ』のオチはキレッキレである。

どのお話にもゾクッとする真相が忍ばされているが、一話目から順番に読んでいくと最終話でとんでもないことになってしまう。

と、ハードルを上げておいてなんだが、期待のしすぎは禁物。一回忘れてくれたまえ。

まずはダークで上品なこの雰囲気を堪能していただきたい。思う存分に酔いしれよう。

そして全編を順番に読み終えた時、思わず心の中で拍手してしまう事になるのだ。

3.『追想五断章』

 

伯父の古書店で働く菅生芳光に、一人の女性から依頼が舞い込む。その内容は、死んだ父が書いたという五つのリドルストーリー(謎を残したまま終わる物語)を探してほしいというものだった。

魅力的な報酬に惹かれた芳光だが、調査していくうちに22年前に起きた未解決事件の存在へとたどり着く。

というわけで今作は、女性の父が残した五篇のリドルストーリーを軸にしたミステリとなる。

まずはこの設定に拍手喝采。五つのリドルストーリーのつなげ方と結末への導き方の美しさは滅多に味わえるものではない。

だが正直に言ってしまうと、最後のどんでん返しを期待するような作品ではない。が、そこの至るまでの計算し尽くされた仕掛けが素晴らしいのだ。

5つのリドルストーリーと実際に起きた未解決事件との絡め方。ぜひその点を注目して読んでみていただきたい。

4.『満願』

 

2015年「このミステリーがすごい! 」で第1位となった6編からなるミステリ短編集。というわけで、その面白さは保証済みなのだ。

しかしあまりに評価が高いため、ハードルが上がりすぎて実際読んでみると「そうでもないな」なんて思われてしまう勿体ない作品でもある。

『儚い羊たちの祝宴』ほどではないものの、作品に漂う仄暗い雰囲気は実に好み。人間の中に潜む「闇」の描き方が巧みであり、なぜそんなことに至ったのか?という必然性の忍ばせ方にも注目していただきたい。

ド派手なトリックや大どんでん返しこそないが、丁寧に張られた伏線とひねりの効かせた物語のおかげで十分な満足感を得ることができる。

マイベストは、とある警官の死をめぐる『夜警』。ミステリとしても物語としてのオチも逸材である。

5.『氷菓』(古典部シリーズ全部)

 

米澤穂信さんのおすすめを聞かれたら、誰もがこのシリーズの名をあげると思われる大人気シリーズ。

神山高校の「古典部」に属する男女4人を中心とした青春ミステリーである。

解決していく事件は「なぜドアの鍵が閉まってしまったのか」「なぜ毎週この本が借りられるのか」など、殺人の起きない〈日常の謎〉に分類されるもの。

一見地味な謎ではあるが、論理的な推理やロジックは本格そのものであり、「そんなのどうでもいいじゃん」と思いがちな謎にもつい引き込まれてしまう。この辺りの魅せ方が本当にお上手なのだ。

また「青春小説」としても一級品の面白さを誇っており、ミステリ云々の前に古典部メンバーの日常と活躍を見ているだけでも楽しいという方も多い(私もその一人)。

しかし彼らの過ごす青春は決して爽やかとは言いにくい。キラキラとした青春の中に潜む「苦味」を押し出しているのもポイントである。

シリーズの順番は

①『氷菓
②『愚者のエンドロール
③『クドリャフカの順番
④『遠まわりする雛
⑤『ふたりの距離の概算
⑥『いまさら翼といわれても

となる。

必ず順番に読もう。

6.『春期限定いちごタルト事件』

 

高校生の小鳩常悟朗(こばとじょうごろう)とその同級生・小佐内ゆき(おさないゆき)を中心とした「小市民シリーズ」の一作目。

殺人の起きない〈日常の謎〉をメインとした青春ミステリーである。

米澤穂信さんの〈日常の謎&青春ミステリー〉といえば『氷菓』をはじめとした「古典部シリーズ」が有名だが、「古典部シリーズ」を面白いと思ったならぜひ「小市民シリーズ」の方もおすすめしたい。

今作で繰り広げられる謎は、「なぜこんな絵を描いたのか?」「どうやって、シンクを濡らさずココアを入れたのか?」など非常にささいなものである。

しかし、これらを論理的に解決していく過程は繊細であり、真相が明らかになった時の充実感は本格ミステリそのもの。日常の謎にありがちな「物足りなさ」を全く感じさせないのである。

殺人事件が起きないなんて生ぬるい!という方にこそ読んでいただきたいのだ。

そして小佐内さんが可愛い。

この次は第二弾『夏期限定トロピカルパフェ事件』、第三弾『秋期限定栗きんとん事件』へと続く。

これも順番に読もう。

7.『犬はどこだ』

 

「犬捜し」を目的として調査事務所〈紺屋S&R〉を立ち上げた紺屋長一郎(こうや ちょういちろう)。

しかし、彼に舞い込んできたのは依頼は〈失踪人捜し〉と〈古文書の解読〉だった。

仕方なしに助手のハンペーと分担して依頼の調査にあたっていくのだが、この二つの依頼がまさかの展開へと繋がっていく。

そんな二人の視点が交互に展開されていく今作は、「ユーモアのあるハードボイルド探偵小説」といった具合で読みやすいことこのうえない。

ラストは一体どうなるのか?と、物語に釘付けにさせる展開もお上手。各キャラクターもとても魅力的であるので、ぜひシリーズ化してほしい作品でもある。

そして何より、「やられた!」というより「そうくるか」と思わせるあの結末をぜひ目にしていただきたい。

8.『インシテミル』

 

時給十一万二千円という超高額時給のバイトに応募した12人の男女が、「暗鬼館」という建物に閉じ込められ殺し合いをすることになる。

という、ミステリー小説ではお馴染みの〈クローズ・ドサークル〉ものである。

ミステリー小説におけるクローズド・サークルといえば「台風がきて孤島から出られなくなってしまった」「大雪のおかげで外部との連絡が取れなくなった」「火山が噴火して……」「唯一の橋が落ちて……」など、自然現象によって引き起こされることが多い。

しかし今作では「殺し合いをさせるためにわざわざ用意された舞台」という、あからさまに人為的に作られたクローズド・サークルだという部分にも注目していただきたい。

「閉鎖空間かつ特殊なルールの中での殺し合い」という設定だけでも十分に面白いが、散りばめられる謎と米澤穂信さんの巧みな演出のおかげで唯一無二の面白さを誇る作品となっている。

よくあるデスゲーム小説とは一味も二味も違った〈本格ミステリ〉なのだ。

9.『さよなら妖精』

 

言わずと知れた名作である。

ユーゴスラビアからやってきた少女・マーヤと街で偶然出会った主人公たちは、彼女と過ごす中で様々な〈日常の謎〉と出会い、推理していく。

しかし本当に解決すべき謎は、マーヤが日本から去っていった後に起こった。

今作は「がっつりな本格ミステリー小説を読みたい!」という時に手に取るものではない。

ミステリーをふんわり漂わせた「青春小説」という具合で、どことなく〈古典部シリーズ〉を思わせる風合いとなっている。

それでいて終盤の盛り上げ方と余韻の残る締め方は絶妙であり、米澤穂信さんの作品を読む上でも外すことのできないものとなっているのだ。

10.『王とサーカス』

さて、上にご紹介した『さよなら妖精』を読んだならば、この『王とサーカス』も読まねばならない。

『さよなら妖精』の出来事から10年後、フリーのジャーナリストとなった太刀洗万智が取材先のネパールで出会った事件の数々を描く。

というわけで、完全な続編というわけではないのだが、できれば今作の前に『さよなら妖精』を読んでおくことをおすすめしたい。読むと読まないとでは、太刀洗万智への感情移入が全く違うのだ。

バラバラだと思っていたピースがカチッとはまって形を成していく気持ちよさ、いたるとことに伏線を忍ばせておきながら全く気がつかせない構成は見事なり。

これだけ広がった伏線をどうやって収めていくのか、と不安にさせるほど膨大に謎が広がっていくが、何から何まで本当に綺麗に回収されていく。気持ちよすぎる。

読む順番とか

今回ご紹介した作品の中で、ちょっと注意していただきたいことが3つほどある。

①『儚い羊たちの祝宴』は短編集だが必ず順番に読むこと。

②『氷菓』などの〈古典部シリーズ〉も順番に読むこと。『春期限定いちごタルト事件』などの〈小市民シリーズ〉も同様。

③『王とサーカス』を読む前に『さよなら妖精』を読むこと。

である。

特に①と②は絶対に守っていただきたい。面白さが全く変わってきてしまう。

まあ③は前後してしまっても問題なく楽しめるんだけどね。個人的なおすすめってことで。

参考にしていただければ幸いです。

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